本研究は、神経細胞の神経軸索ガイダンス因子であるSemaphorin7A(Sema7A)が歯髄の炎症に関与していること、そして歯髄に不可逆性の歯髄炎が生じた場合Sema7Aの制御によって、歯髄自体も保存できる可能性があることについて明らかにすることを目的としている。Sema7Aは骨代謝、癌の形成、免疫などで関与が報告されており、歯の構成組織の1つである象牙芽細胞での発現が確認されている。また、Sema7Aが炎症促進に関与しているとの報告から、歯髄の不可逆性の炎症の増悪因子の一つとしてSema7Aが関与している可能性を考えた。 Sema7Aはリコンビナントタンパクを使用し、抜去歯牙から採取したヒトの歯髄線維芽細胞に対して、炎症性サイトカインの1つであるTNF-αで誘発した炎症惹起下での反応を検討した。歯髄線維芽細胞にはTNF-αの受容体とSema7Aの発現をWestern Blotting法で確認した。TNF-αとSema7Aで刺激した歯髄線維芽細胞の培養上清中からは検出されたIL-6とIL-8は、TNF-α単独で刺激した時よりも分泌量が増加傾向を示すことをELISA法で確認した。また、TNF-αとSema7Aで刺激した歯髄線維芽細胞にIκB/IKK阻害剤、MEK阻害剤、p38 MAPK阻害剤を作用させた結果、IL-6、IL-8の分泌量が減少したが、JNK阻害剤では分泌量に変化は認められなかった。Western Blotting法で細胞内タンパクを検討すると、TNF-α単独刺激よりもIκB-αの分解が促進され、ERKのリン酸化を促進する傾向を確認した。 これらの結果から、歯髄線維芽細胞の炎症時にSema7Aは炎症促進因子として機能する可能性は示唆されたが、再現性のため購入した歯髄細胞では有意差は認められなかった。
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