研究代表者らは、間葉系幹細胞(MSCs)と細胞自身が産生する細胞外基質(ECM)から構築される間葉系幹細胞集塊Clumps of MSCs/ECM complexes(C-MSCs)を樹立していた。C-MSCsは直径1mmほどの立体的細胞塊であり、人工材料を用いることなく骨欠損部に移植され、骨再生を誘導する。 特に研究代表者は、C-MSCsは浮遊培養されるため場の硬さを感知しにくく、YAP/TAZメカノシグナルが阻害されやすいことを見出していた。重要なことに生体のMSCsは、YAP/TAZメカノシグナルが活性化状態にあるような硬い足場において骨分化を行うことが報告されていた。そこで本研究では、C-MSCsを硬さ調節可能なゲルに包埋培養することでYAP/TAZメカノシグナルを活性化させ、人工材料を含まずに、骨芽細胞・骨細胞・骨基質からなる骨様組織の創生を目指した。 その結果、2019年度には、C-MSCsを硬さ調節した多糖ベースのゲルに包埋培養し、至適化した骨分化誘導を施すことで、骨組織に類似する骨様組織を作製することに成功し、本プロトコールと製造物についての特許出願を済ませていた。そこで、2020年度には、ヌードラット頭蓋冠欠損に対する移植実験を行い、骨様組織がC-MSCsよりもさらに高い骨再生効果を発揮することを見出した。現在、これらの成果をまとめて論文発表するための準備中である。 さらに、一連のメカノシグナル研究過程において、浮遊状態のC-MSCsにおいて、YAP/TAZ活性の低下のみならず、p38/JNK-c-FOS-Cox2シグナルカスケードが活性化することを見出した。これによって、浮遊状態によって誘導される細胞死アノイキスからC-MSCsは保護されていることを示し、論文発表に至った。
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