本研究では、研究代表者が所属する研究室でこれまでに開発した、「強固な接着」と通電による「容易な分離」を両立した「歯科用スマートセメント」を、インプラントの上部構造を想定した非導電性素材(セラミックス、ハイブリッドレジン)に応用することを目標としている。 今年度は通電時のスマートセメントへの電気伝導の様子を、Tiを用いて調べた。非導電性素材であるアクリルにTiを埋め込んだ試料(アクリルTi)と導電性ガラスをイオン液体10%のスマートセメントで接着し、アクリルTi側をアノードとしたときの0.02mA定電流条件下における電気伝導の様子をカソード側から観察した。このとき電圧は20V以上を示し、通電時間が増加するに従いTi表面が黄色に変色し気体が発生し、通電時間とともに気体がTi表面からアクリルに向かって広がっていくのを確認した。このことから、電気伝導によりアノード側でTiイオンが発生し、セメントに含有している水の電気分解が起こったと考えられる。つまり、アノード側で発生したTiイオンが溶存酸素と反応し酸化チタンが生成し、その結果カソード側では水素が発生し、カソード側のセメント界面に広がったと推測できる。よって、Tiを介せば非導電性素材と接着した部分の剥離が可能であることが示唆された。これは非導電性素材であるインプラント上部構造を介してスマートセメントへ通電可能な上部構造のデザインとして有効であると考えられ、新たなインプラントの着脱様式開発の可能性を見出すことができた。
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