研究課題
本研究の目的は、次世代シーケンサーを用いた網羅的遺伝子発現解析やリボソームプロファイリング等の解析手法を用いて、歯根膜由来間葉系幹細胞(PDL-MSCs)が担う歯根膜、セメント質、歯槽骨の再生といった、複雑な組織修復機構を制御しうる因子を同定することである。さらに転写因子をターゲットとしたsiRNAによるloss of function実験や、液性因子をターゲットとしたリコンビナントタンパクの添加実験により、同定したPDL-MSCs特異的な制御因子の機能解析を分子生物学的手法で明らかにすることが目的となる。RNA-seqにより細胞の分化や増殖といった特性に関与する遺伝子を選定することは可能であるが、RNA-seqのみではある特定のタイミングにおけるmRNAしかみることができないため、リボソームプロファイリングと呼ばれる翻訳活性化状態にあるmRNAも読み取ることができる手法を組み合わせることで、マルチスケールな解析が可能となり、より詳細かつ動的な遺伝子発現を調査することが可能となる。これまでの研究でPDL-MSCsを細胞移植した際に、骨芽細胞分化誘導培地(OIM)で培養した細胞群では非誘導培地で培養した細胞群と比較して有意な新生セメント質と歯根膜の形成を認めることが報告されており、OIMにより分化した細胞が分泌するマトリックスなどが、再生に重要な微細環境を形成していると考えられている。そのため、PDL-MSCsのOIM培養のものだけでなく、BMP2やBMP6といった骨芽細胞分化促進タンパク添加群においてもRNA-seqのサンプルを採取し、RNA-seqを実施した。なおRNA-seqの解析については完了し、候補遺伝子の選定を行っている。またリボソームプロファイリングのサンプルについては、効率よくリボソームと結合しているmRNAを抽出するための条件検討を実施している。
2: おおむね順調に進展している
これまでの進捗状況としては、予定としていたRNA-seqの実施、および解析は完了しているためおおむね順調に進展していると考える。本来予定としていた歯根膜由来間葉系幹細胞(PDL-MSCs)の骨芽細胞分化誘導培地(OIM)による分化誘導だけでなく、BMP2やBMP6といった他の骨芽細胞分化に関連する成長因子についても添加・培養後にサンプルを回収している。さらには、OIMに含まれるデキサメタゾンの単独添加群や脂肪細胞分化誘導群についてもサンプルを回収し、多くのサンプル間での遺伝子発現解析を実施した。この中でOIM単独、並びにOIM、BMP2、BMP6の3グループ特異的に発現上昇する遺伝子を選定し、今後リボソームプロファイリングとの比較検討を行っていく予定である。さらに、過去の研究で用いていた顎骨由来間葉系幹細胞と骨髄由来間葉系幹細胞のRNA-seqデータを用いてPDL-MSCs特異的な発現変動遺伝子に関しても調査している。なお、リボソームプロファイリングのためのサンプルについては、翻訳中のリボソームとmRNAの複合体を丸ごと抽出し、RNase処理を行うといった工程でサンプルを回収するが、回収した核酸が少量であるためにシーケンスがうまくいかないといったトラブルもあったため、現在効率よくサンプルを回収するための条件検討を行っている。
RNA-seqとリボソームプロファイリングにより選定した遺伝子に関して、siRNA等の手法を用いてPDL-MSCsのターゲットとなる遺伝子をノックダウンし、骨芽細胞分化誘導時におけるアルカリフォスファターゼ活性、アリザリンレッドS染色といった骨芽細胞分化に関する検証を実施する予定である。また上記の解析の中で、KEGG pathway解析と呼ばれる、特定のシグナルとの関連性を調査する解析手法を実施し、それにより決定した下流のシグナルや液性因子に関してウエスタンブロッティング法やELISA法により、タンパクレベルでの詳細な実験を行っていく。さらには、PDL-MSCs以外のMSCsに特定のリコンビナントタンパクを添加し、PDL-MSCs特異的な遺伝子発現パターンにシフトするかに関しても調査する予定である。なお、リボソームプロファイリングのサンプル抽出が難航した場合には、ChIP-seqと呼ばれる、ヒストンタンパク修飾を網羅的に調査することができる手法に変更することも検討している。この手法により、転写活性が行われている領域をDNAレベルで特定することが可能となり、RNA-seqと組み合わせることにより、研究計画同様マルチスケールな大規模解析が実施できると考える。しかしながらChIP-seqについてはタンパクーDNA結合体を抽出する必要があり、こちらのサンプル採取についても技術的に難易度が高いことが想定されるため、十分な検討をしていく。
当該年度ではリボソームプロファイリングのサンプル抽出に難航したために、シーケンシングの実施ができなかったため予定とした金額より少ない結果となっている。次年度では引き続き精度の高いサンプル抽出のための条件検討を実施して、可及的速やかにシーケンシングを実施する。
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