研究実績の概要 |
本研究では持続的な骨組織再生効果を期待した骨誘導因子を徐放するメンブレン開発の基盤を生化学的側面から築き, 歯科インプラント治療が困難となる病的歯槽骨吸収症例への臨床応用が可能かどうかを検証した. 動物実験では,Sprague-Dawley(SD)ラット大腿骨を塩酸で脱灰した骨試料(DBS-P)で高度に石灰化が誘導されたが,そこから塩酸グアニジンを用いて骨タンパク質を除去した試料(DBS-E)では石灰化が生じていなかったことより,DBS-Pに含まれるタンパク質画分に石灰化誘導能を有する物質が存在することが示唆された.この画分に相当するG2画分はヘパリンアフィニティークロマトグラフィー(Hep-AFC)により5つの画分に分画され,Hep-AFC の0.1 M NaCl溶出画分(Hep-c)に高いALP活性が認められた.また,ルシフェラーゼアッセイにおいてもHep-cが高い活性を有していたことより,この画分にはトランスフォーミング成長因子ベータ(TGF-β)が存在することが考えられた.また質量分析によりHep-cには象牙質マトリックスタンパク質1(DMP1),Matrix extracellular phosphoglycoprotein(MEPE),ビグリカン(BGN)などのNCP非コラーゲン性タンパク質(NCP)の存在が確認された.in vitroの結合実験ではNCPと結合することでTGF-βの活性が約14.7~32.7%増加することが明らかとなった.これらの結果から脱灰骨シートは石灰化誘導能を有し,その効果はシートに含まれる骨タンパク質中のTGF-βによるものであることが示唆された. TGF-βはDMP1,MEPE,BGNなどのNCPと結合することでその活性が維持されるため,メンブレンが徐放する骨誘導因子にはTGF-βとNCPの組み合わせが有効だと考えられる.
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