研究課題/領域番号 |
19K19064
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
長沼 由泰 東北大学, 大学病院, 医員 (90800996)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 超音波顕微鏡 / 音響インピーダンス / う蝕 / 診断 / 充填材料 |
研究実績の概要 |
昨年度は新型コロナウイルスによる影響を大きくを受ける中での実験となったため新規のヒト抜去歯を用いずに行える実験を主として行った。う蝕(虫歯)の診断に対しては、「既に治療された歯」が再度う蝕になったケース、すなわち二次う蝕歯を正しく測定・判定することが歯質を可及的に削らず切削量を最小限にするという“Minimal Intervention”の観点からも大変重要になってくる。二次う蝕の場合、近年の歯科材料の進歩により色調などが向上している一方、内部でのう蝕の進行が目視では捉えにくくなるという点もある。このような時、今までも方策として提示した、う蝕治療時に用いられる歯科材料の評価を非破壊で、かつ客観的に行うことが医療の標準化という点においても重要な位置を占めることになる。以上のことから、昨年度はう蝕治療に多用される歯科材料の評価を研究計画時から提言していた、既存の測定方法である硬さ試験と超音波顕微鏡による音響インピーダンスを用いた音響特性試験を行った。歯科材料については、二次う蝕を診断するという観点から充填材料(一般的言い方でいう、詰め物)を主に取り扱い、現在までに収集した歯牙に対する各種データや先行研究での既存で発表されているデータ等との比較検討を行った。その際に、昨年度計画していた人工唾液をカップリングデバイスとして超音波顕微鏡装置による撮影を行ったが、そちらの結果は蒸留水によるものと大きな差はみられなかった。加えて、口腔内環境に可能な範囲で近づけるようヒト唾液を充填材料に触れさせた状態での物性が変化するかについても評価を行い、音響インピーダンスによる音響特性データを得ることができた。研究内容の一部は第37回日本障害者歯科学会総会および学術大会にて発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は患者さんからの抜去歯の提供が実験の進捗に大きく影響する研究であるが、昨年度は新型コロナウイルスの影響で病院機能が停止・制限を受けてしまった。そのため、診療件数にも大幅な制限が加わり、当初こちらが想定していた、患者さんからの抜去歯の提供を受けることが非常に困難な状況になってしまった。また同時に実験場所である大学内の立ち入りも制限され、実験自体を行うことも困難な状況となった。 そのため本年度は上記に記したように、前年度報告・研究予定にも述べた二次う蝕を想定した実験に比重を置いての実験を主として行った。実験状況としては抜去歯を用いない方法でかつ口腔内を再現するために、う蝕治療に多用される充填材料の評価を様々な条件下において既存かつ当初から使用している硬さ試験機と本研究のメインテーマである超音波顕微鏡により評価を行った。その際より口腔内状況に近づけるために、前年度報告時点では人工唾液の使用のみを計画していたがヒト唾液の使用を新たに計画した。使用に先立ち、本学倫理委員会に使用の申請を提出、承認された。唾液に関しては唾液腺疾患に罹患していない本学学生・職員などから検体の提供を受け実験に供しているため、抜去歯とは違い試料の収集については難儀をしなかったため、充填材料に唾液を暴露させた状態での各種評価を行っている。現在は、2月3月に発生した大型地震の影響も受けたため、まずは対照研究となる既存の評価方法による測定を進めるとともに、小型超音波顕微鏡装置による測定を併行して行い、これまでに各種測定した既存の試料に対して、本装置による測定を行い測定装置を小型化した場合に臨床的に用いることができるかどうかの検討を行っている。また、診療再開に伴い患者からの抜去歯提供を併行して求めている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
う蝕の診断に対しては、先述した二次う蝕歯を正しく測定・判定することが大変重要になってくる。その際、昨年度報告時も方策として提示したう蝕治療に用いられる歯科材料の評価も行うことが重要になる。そのため、歯科材料の中でも二次う蝕に関連する「充填材料」に焦点を置いて引き続き評価を行う予定である。また、試料の準備ができ次第、う蝕に罹患している抜去歯に各種充填材料を充填した状態で、音響インピーダンスを含めた各種データを採取する予定である。加えて、前年度行った研究結果の一部については論文として投稿予定である。また、歯科材料と歯牙との間で各種測定方法、特に音響特性に特徴的な差が出るのかという点についても評価を進めていく必要があると考えている。歯周疾患の方については、歯石が沈着した抜去歯牙が必須となる。しかし前述の通り、主に新型コロナウイルスの影響により抜去歯の提供を受ける機会が激減していることに加え、提供頂ける歯牙の中で本条件に合致する歯牙がどの程度集まるかによって研究の進捗状況が大きく左右されるが、条件にある抜去歯牙の提供があり次第歯石と歯牙の評価を行いたいと考えている。歯科臨床の場面への応用が可能かどうかという点については先述のポータブル超音波顕微鏡装置を用いて、歯牙・歯科材料の測定を引き続き継続して行いデータ収集することを予定している。 懸案事項として現状も新型コロナウイルスの影響は存在し、その影響が本年度以降にも影響がある場合は実験の遂行に遅れが生じる可能性を考えざるを得ない。その場合は、抜去歯を用いない方法での評価を継続して行う予定である。本年後は本課題の最終年度であるが、実験に影響が出る程度の影響が年間を通して出る場合には実験期間の延長申請も視野に入れて対応する必要があると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により、当初参加を予定していた研究会や学会が中止若しくは現地開催ではなくオンライン開催になった。そのため、まず旅費にて使用見込みだった分がほぼ全額余る形になった。また、去年度行う予定だった実験についても大幅な制限の中で行わざるを得なかった為実験機器の方での支出が少なかったことから当初の計画分から残額が生じた。本年度の使用計画としては当初予定した実験を遂行するための消耗品や機材の購入に充当するほか、成果発表のためにかかる諸経費に充てる予定である。
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