本研究はヒト口腔粘膜より単離したケラチノサイトから産生されたePUKs (epithekial Pop Up Keratinocytes)の生物学的評価と神経細胞分化評価をin vitroで評価することを目的とする。最終年度には脊髄損傷モデルマウスを用いたin vivo実験でePUKsの神経再生とそのメカニズムを評価する予定であったがin vitroでの実験データ不足により動物実験まで進むことができなかった。ePUKsは通常の口腔粘膜由来ケラチノサイトの培養方法とは異なり、通常の2倍の培地を使用し、連日培地交換を行うことでおおよそ80%コンフルエント以降に培養上清中に産生され始める。in vitroでのePUKsの生物学的評価ではePUKsの産生率、ePUKsサイズおよびePUKsの生存率を評価した。その結果、80%コンフルエント後にePUKsが産生され始めた後、4日、5日目に産生されたePUKsの細胞数が最も多く、細胞サイズは通常の口腔粘膜由来ケラチノサイトと比較して小さく、また細胞生存率も高い結果となった。それらのePUKsを免疫蛍光染色で検討したところ、通常の口腔粘膜由来ケラチノサイトと比較して有意に多くの幹細胞マーカー(Lgr5)の発現が認められた。またePUKsが培養上清中に産生した増殖因子(Epidermal Growth Factor and Fibloblast Growth Factor 2)の量は通常の単層培養の口腔粘膜由来ケラチノサイトと比較して有意に高い値を示した。これらの結果からePUKsは通常の口腔粘膜由来ヒトケラチノサイトと比較して幹細胞に近い細胞であると示唆された。また、最も幹細胞に近いと評価された培養開始後4日、5日目に採取されたePUKsをbFGF添加の神経幹細胞維持/神経分化培地で培養し神経分化誘導を行ったが神経細胞分化で重要な役割を果たすSRY-box transcription factor 2(sox-2)は培養上清中に検知できず、神経細胞の特徴的な構造も確認することができなかった。
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