研究課題/領域番号 |
19K19078
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研究機関 | 鶴見大学 |
研究代表者 |
斉藤 まり 鶴見大学, 歯学部, 助教 (60739332)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 歯科インプラント / オッセオインテグレーション / 骨ハイドロキシアパタイト / セリア系ジルコニア / アルミナ複合体 / 結晶相同定 / 骨芽細胞 / 細胞接着 |
研究実績の概要 |
本申請課題のテーマであるセリア安定化ジルコニア(Ce-TZP)のオッセオインテグレーション能評価に関しては、細胞産生アパタイトとCe-TZPが分子レベルで直接結合可能なことを発見し、ジルコニアの生体活性を証明したことで、主目的は達成されている。そこで、研究課題を拡張した下記の追加研究を行っている。
1)インプラントのオッセオインテグレーションとセメント質の役割に関する調査 インプラントのオッセオインテグレーション研究では材料と骨アパタイトとの結合状態を議論するが、咬合力が直接骨に伝達することによる弊害も問題視される。近年では、咬合力の緩和を狙ってインプラント表面に有機物層に富むセメント質を構築する研究が注目されており、その調査を行った。この調査によりレビュー論文一報を執筆・発表した。 2)チタンインプラントと骨界面のナノレベル評価 チタンのオッセオインテグレーションでは、骨アパタイトとチタンが数10nm厚のアモルファス有機物層を介して結合する。しかしこのオッセオインテグレーションモデルをナノレベルで検証した事例は存在しない。C2C12細胞をチタン基板上で培養し、細胞産生アパタイトと基板の界面構造を透過電子顕微鏡で評価した。得られたデータを解析した結果、予備実験の段階で既に次の新知見を得た。①細胞産生アパタイトとチタン基板の界面には、炭素と酸素に富む約15nm厚のアモルファス層が存在する。一方で、アパタイトとチタンが直接結合している領域も存在する。②アモルファス層とアパタイト層の結合は脆弱で、電子線照射により簡単に破壊される。これらの結果は、いずれもチタンのオッセオインテグレーション機構に直接関与する重要な発見であり、今後より詳しく調査を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の申請課題の主目的は2021年度までに達成した。すなわち、次世代インプラントであるCe-TZPに関して、細胞産生アパタイトとの結合機構を透過電子顕微鏡観察から分子レベルで初めて解明し、ジルコニアのオッセオインテグレーション能に関する確定的な結論を得た。この研究では、Ce-TZP基板表面への化学的処理を行わず、基板中のジルコニア結晶とアパタイトが分子レベルで直接結合することを観察と結晶構造考察から証明した。この新知見は生体内でのCe-TZPの優れたオッセオインテグレーション能を示唆すると同時に、ジルコニアが生体不活性材料であると考える従来の常識を覆すものである。 現在は本研究の発展として、インプラントの生体内挙動に注目し、インプラント上にセメント質を再生する研究を計画している。本年度はそのために過去の研究を詳細に調査し、レビュー論文を発表した。 さらに、インプラント材として普遍的に使用されてきたチタンとCe-TZPのオッセオインテグレーション機構の相違をナノレベルで検証する新計画を立案した。チタン基板上で骨芽細胞分化誘導を行ったサンプルを観察、解析した結果、極めて興味深い知見が得られた。それらは、チタンと細胞産生アパタイトとの界面に存在すると予想された有機物アモルファス層と思われる構造の発見、チタンとアパタイトとの直接結合領域の発見等である。これらの観察データはいずれも世界初の成果であり、今後の本観察を通じて再現性を検証してゆく。 申請課題の範疇を超えて新たに得られた成果を考慮すると、本研究課題は当初の計画より大幅に進捗していると結論する。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に得られた新知見と共に、以下の実験手法上の問題点が見いだされ、その問題点を解消する手法を構築中である。
チタン基板と細胞産生アパタイトとの界面構造をナノスケールで評価した際に、基板の表面粗さが元素組成分析データにアーティファクトを与えることが判明した。すなわち、組成分析では電子線透過方向の全てのデータを積算して二次元元素分布図を構成するため、基板表面に凹凸が存在すると、観察対象である有機物層中に、存在しないはずの元素も含まれてしまう。この問題点を解決する手法として、まず結晶方位が確定し且つ表面が原子スケールで平坦なシリコン単結晶基板を準備する。その基板上に二酸化チタンの結晶膜を100nm厚程度蒸着することで、二酸化チタン膜表面の平坦性を担保する。最終的にシリコン-二酸化チタン複合基板上で細胞を培養して、アパタイトを産生させるシステムを考案した。予備観察に供与した市販チタン表面は、ルチル構造を持つ二酸化チタンに変化しているため、上記の複合基板と細胞との相互作用は従来のチタン基板の場合と同一であると推測する。
複合基板を用いた観察では、細胞産生アパタイトとチタン表面間の有機物層の化学組成が厳密に判定できるはずであり、当該層が従来のモデルどおりアミノ酸あるいはタンパク質を主成分とするのか、脂質中心なのかの結論を得ることができる。この新システムでアモルファス有機物層の実体に関する確定的なデータが得られれば、別途実施していたチタン選択吸着タンパク質に関する研究とも関連性を見出すことが可能となり、学術的に大きな発見になる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は事情により休暇を取得したため、研究については論文執筆を主とした。 そのため、本年度行う予定であった実験については、来年度引き続き行う予定である。
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