本研究は、マウスc57BL/6Jを用いて、咀嚼が糖代謝に関係する組織とホルモン(アティポネクチン、GLP-1、UCP-1、グルカゴン)に与える影響について生化学的、組織学的検討を行う予定である。2年の研究期間で1.健常マウスにおける咀嚼が糖代謝系に与える影響2.糖尿病モデルマウスにおいて咀嚼が糖代謝系に与える影響の検討を行う予定である。 平成31年度では、1健常マウスにおける咀嚼が糖代謝系に与える影響について検討を行った。マウスを固形飼料を摂取する群を咀嚼群,液体飼料を摂取する群を非咀嚼群と設定し、12週飼育を行った。糖負荷試験後、各種サンプルの摘出を行った。その結果、咀嚼は糖付加試験、血糖値、グルカゴン濃度において有意な差を与えなかった。一方、GLP-1濃度、インスリン濃度、アディポネクチン濃度及びUCP-1濃度においては有意な差を認めたことから、咀嚼は上記のホルモン分泌において影響を与えていたことが明らかとなった。GLP-1分泌はインスリン分泌に影響を与えること、短期の咀嚼はGLP-1分泌に影響を与えることは過去の報告からも明らかとなっているが、今回の結果により、短期の咀嚼の繰り返しによる咀嚼習慣がインスリン分泌においても影響を与えたと考えられる。 一方、飼料性状の変更は糖代謝に影響を与えることも報告されているが、今回の結果では血糖値及び糖付加試験において有意な差は認めなかった。インスリンはインスリン供給不全とインスリンが作用する臓器におけるインスリン感受性の低下により血糖値と糖代謝に影響を与える。そのため、今回の実験期間ではインスリン分泌には影響を与えたが、インスリン抵抗性には影響を与えず、さらに血糖値にも影響を与えなかったと考えられる。
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