本研究は、マウスc57BL/6Jを用いて、咀嚼が糖代謝に関係する組織とホルモン(アティポネクチン、GLP-1、UCP-1、グルカゴン)に与える影響について検討を行った。 1健常マウスにおける咀嚼が糖代謝系に与える影響について検討 マウスを固形飼料を摂取する群を咀嚼群,液体飼料を摂取する群を非咀嚼群と設定し、12週飼育を行った。糖負荷試験後、各種サンプルの摘出を行った。その結果、咀嚼は糖付加試験、血糖値において有意な差を与えなかった。一方、GLP-1濃度、インスリン濃度、グルカゴン濃度、アディポネクチン濃度及びUCP-1濃度においては有意な差を認めたことから、咀嚼は上記のホルモン分泌において影響を与えていたことが明らかとなった。本研究の結果から,咀嚼がアディポネクチンの分泌を促進し,インスリン感受性の維持に寄与していることが明らかとなった.また咀嚼はグルカゴン分泌に影響を与えていることが明らかとなった.アディポネクチンは内蔵脂肪の蓄積により血中濃度が低下し,高血圧や糖尿病といった生活習慣病発症のリスクを上昇させている. 22糖尿病モデルマウスにおいて咀嚼が糖代謝系に与える影響 糖尿病モデルマウスを用いて、実験1と同等の条件で実験を行った。血糖値、アディポネクチン濃度において有意な差を認めなかったが.血清中のPEPCK濃度で非咀嚼群は咀嚼群よりも有意に高い値を示した(p < 0.05).非咀嚼群のPEPCK濃度は咀嚼群よりも高いことから、インスリンシグナルが非咀嚼群では阻害されている可能性が示唆された。糖尿病ではインスリン分泌異常とインスリン抵抗性が問題となり、インスリンの作用低下によりインスリン抵抗性が上昇すると2型糖尿病のみならず、高血圧や脂質代謝異常に関与する.本研究の結果より、咀嚼はインスリンシグナルに影響を与えることにより、インスリン抵抗性に影響を与える可能性が示唆された.
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