研究課題/領域番号 |
19K19107
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
岩崎 太郎 日本大学, 松戸歯学部, 助教 (60778281)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | チタン / 過酸化水素水処理 / シラン処理 / コンポジットレジン / 接着強さ / エックス線光電子分光法 |
研究実績の概要 |
本研究では、歯科用CAD/CAMシステムで加工が可能な歯科用金属材料であるチタンに対する新規接着システムの構築に向けた基礎的研究を行った。その結果、チタンとコンポジットレジンとの高い接着強さ獲得には、表面に対する1)水酸基導入(Ti-OH基)のための過酸化水素水処理と、その後の2)シランプライマーによるシラン処理が有効であることが明らかになった。 チタン表面に対する過酸化水素水処理の効果を水の接触角で評価したところ、未処理の場合に約50°だった接触角が1mass%の過酸化水素水で処理を行うと約10°となり有意に減少した。さらに、濃度を20mass%まで段階的に上げても接触角は約10°を示し一定であった。濃度が上がるにしたがってチタン表面への水酸基の導入は効果的であると考えられるが、10mass%以上では表面の顕著な変色が観察された。次に、過酸化水素水処理の効果をコンポジットレジンとの接着強さで評価した。各濃度に調製した過酸化水素水で処理し水酸基の導入を行ったチタン表面に、シランカップリング剤であるγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを含むシランプライマーを塗布した。そして、その処理面にコンポジットレジンを接着させ、せん断接着試験を行った。その結果、7mass%以上では接着強さが約17MPaであり、有意に高い接着強さを示した。以上のことから、チタン表面の変色が最小限で尚且つ有意に高い接着強さを示す7mass%を過酸化水素水の最適濃度と決定した。 本接着システムの接着機構を解明するため、水酸基の導入とシラン処理を行ったチタン表面に対してエックス線光電子分光法による分析を行った。その結果、チタン表面には水酸基とともにハイドロペルオキシ基(Ti-OOH基)が導入されていることが判明し、接着強さ向上に寄与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在、チタンのような歯科用非貴金属材料に対して、装着材料や前装用材料であるコンポジットレジンを接着させるためには、金属接着性モノマーを用いる接着システムが一般的である。しかし、金属接着性モノマーによる化学的な接着強さに関しては耐久性が低く、臨床的に良好な予後を達成するには改善の余地があるとされてきた。本研究では、従来の接着システムの欠点を改善した、臨床応用が可能なより簡便で高い接着強さを獲得できる新規の接着システムを開発することを目的とした。 本年度では、過酸化水素水処理によってチタン表面を改質し、さらにシラン化学を応用する本接着システムにおける最適な処理条件を見出すことを目指した。これまでに、1mass%以上に調製した過酸化水素水を用いて処理を行うと表面の改質、つまり水酸基(Ti-OH基)の導入に最適であることが明らかになった。さらに、7mass%以上で処理を行うと有意に高いコンポジットレジンとの接着強さを獲得できることが明らかになった。このことから、過酸化水素水処理によるチタン表面の変色を考慮し、7mass%を最適濃度と決定した。 また、本接着システムの接着機構を解明するため、エックス線光電子分光装置による表面分析を行った。その結果、過酸化水素水処理によってチタン表面にはTi-OH基とともに、ハイドロペルオキシ基(Ti-OOH基)が導入されることが明らかとなった。このTi-OOH基によってシランカップリング剤のチタン表面への化学吸着や物理吸着が促進され、コンポジットレジンとの高い接着強さが獲得できるようになったと示唆された。 以上のことから、本研究は現在までに、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はこれまで、チタンに対する新規接着システムの開発を目指し、従来の接着システムと比較して有意に高い接着強さを獲得できる最適な条件を明らかにした。同時に、術者の技量に依存せず、チェアサイドで行える簡便な接着システムを確立するためには、いくつかの課題が明らかになった。その1つに、水酸基の導入を行うための過酸化水素水の処理条件が挙げられる。現在、80℃に加温した過酸化水素水中に30分間チタンを浸漬することで表面の改質を行っている。臨床におけるチェアタイムの効率化を考える上で、この処理条件を時間的に短縮するための検討を行う必要がある。また、口腔内の環境をシュミレーションした水中熱サイクル試験を行い、本接着システムが長期接着耐久性に及ぼす影響も検討する必要がある。 これらに加え今後はさらに、本接着システムによって処理を行ったチタン表面に歯冠色のコンポジットレジンを前装し審美性の優れた補綴装置の製作を想定し、市販される様々なコンポジットレジンとの接着強さの検討を行う。同時に、口腔内で咀嚼等の運動に耐えうる補綴装置を製作するために、これらのコンポジットレジンの機械的性質の評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、新規接着システムを構築するにあたり、試薬や溶媒を用いて、各濃度の過酸化水素水やシランプライマー等を調製し最適な表面処理条件や操作ステップを設定した。また、本接着システムと金属接着性プライマーを含む従来の接着システムを用いて、コンポジットレジンとの接着強さを比較し、有効性の検討を行った。しかし、当初の研究計画よりもこれらの評価・検討に時間を要した。これによって、今年度予定していた研究成果発表に係る学会出張旅費や論文作成時の英文校正費用、学会誌投稿料等が執行できず残額が生じてしまった。 このことを踏まえ、次年度は本研究課題を計画通りに推し進め、本接着システムの開発に必要な試薬やコンポジットレジン等の消耗品や試料分析費等はもちろん、特に研究成果を国内外の学会で発表し、またそれらの成果を論文にまとめ学会誌に投稿するための費用として予算を執行する。
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