<背景・目的>アルツハイマー病は、認知機能の低下を引き起こす疾患であり、アミロイドbやタウ等が原因物質として知られているが、その詳細なメカニズム の解明は未だに十分でなく、有効な治療薬の開発も難航している。そのため、現時点では予防が重要となる。近年、歯周病と認知症発症との相関関係を示唆する 研究成果が報告されているが、異常な噛み合わせの状態である、咬合不正と認知症発症との関係性に着目した研究報告はない。本研究の目的は、咬合不正とアル ツハイマー病発症の関係性を明らかにすることである。 <材料と方法>8週齢(若年者相当)・50週齢(老年者相当)のC57/BL6マウスの臼歯部に早期接触を付与 して不正咬合状態にした。実験開始後、1・4週間後に、Y字迷路試験・新奇物質探索試験・8方向性放射状迷路試験を行い認知機能を評価した。血清中のIl-1b濃度を測定し、脳 海馬のウェスタン・ブロッティング法にてIL-1b、アミロイドb、タウのタンパク発現レベルを評価した。また、脳海馬の組織標本を作製し免疫染色を行い、 アミロイドb、タウの発現の局在を解析した。 <結果・考察> 8週齢マウスは、1週間後に血清および海馬におけるIL-1bの発現が有意に増加した。新奇物質探索試験・8方向性放射状迷路試験の結果から、1・2週間後で認知機能 の一過性の低下を認め、4週間後で回復傾向にあった。50週齢マウスでは、実験開始前から8週齢マウスと比較して認知機能は有意に低下しており、咬合不正に 起因するさらなる認知機能の低下は認めなかった。脳海馬において咬合不正によりアミロイドb、タウの発現の有意な増加を認めた。病理組織解析からも海馬に おけるアミロイドb、タウの発現の局在を認めた。以上の実験結果から、若年者における咬合不正がアルツハイマー病発症のリスク因子となることが示唆され た。
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