小児期の咀嚼機能の発達不全は,成人期の咀嚼機能の低下を招き,高齢者における疾病等による咀嚼機能障害を重篤化する要因の一つである.小児の咀嚼機能の発達,特に咀嚼運動様相が小児期のタッピングから成人期のグライディング主体への運動と変化する歯列交換期の咀嚼機能を客観的に評価し,その影響因子を研究することは重要であるが,その報告は非常に少ない.また,学齢期の食生活指導はその成長段階により摂取できる食形態が変化するため,その段階に合わせて行う必要がある.側方歯群交換期には咀嚼能力の低下が見られると指摘されているが,その時期の咀嚼能力や食品摂取状況に関してはほとんど明らかになっていない.これらのことから,本研究では,側方歯交換期を含めた歯列交換期における歯列の状態が咀嚼能力,特に剪断能力と混合能力ならび咀嚼能力の発達に及ぼす影響について小学校で行われている学校歯科検診,食品摂取状態,咀嚼機能検査,身体機能測定のデータを基に統計学的検討を行うこととした. 兵庫県のたつの市の一カ所にある小学校の4-6年生を対象に実施された咀嚼機能検査および身体機能検査のデータを基に検討を行う予定であったが,安全対策の検討を行うも,コロナ感染症の影響にて検査が実施できず,見通しも立たないことから,コロナ前に測定された検査結果を含め検討を行うこととした. その結果から咀嚼能力は咬合力,咬合接触面積,咀嚼速度との間に正の相関があり,咀嚼能力と咀嚼速度の間に有意な関連がみられたことから,ゆっくり咀嚼するほど咬合力が高いことが示唆された.また,咬合力が高く,ローレル指数が低いほど咀嚼能力が高い傾向にあった.これらのことから,咬合力が高く,ゆっくりと咀嚼するほど,混合歯列期の咀嚼能力は高くなること、そしてこれらが肥満と関連している可能性があることを示唆された。
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