本研究では『咀嚼時の舌運動が,舌のトレーニング効果を有するのか』を解明することを本研究課題の核心をなす学術的「問い」とし,①若年者および高齢者における舌運動関連筋の電気生理学的特徴を明らかにすること②食品の物性と咀嚼方法が咀嚼時の舌運動に及ぼす影響を明らかにすること③咀嚼時の舌運動がもたらす舌のトレーニング効果を明らかにすることの3点を目的としている。高齢者の低下した舌機能の回復を目指すことに留まらず,舌機能の低下を防止する日常的機能運動を探索・提示し,摂食嚥下の機能低下を未然に防ぐことで,健康寿命の延伸を達成しようとするものである。 現在,筋電図の解析に必要なデータ標準化の手法について,若年健常者を対象として研究を行っている。また,食品性状や咀嚼方法が舌後方部の筋活動に及ぼす影響について解析を行っている。筋電図データの標準化には繰り返し施行による再現性が求められるという報告をもとに,舌圧・筋活動量データの再現性が高い舌運動について検討を行った。現状では舌圧の日間変動が0.50程度と中等度の再現性を示す運動を提示するに留まっているが,データの記録方法等で改善な点が抽出できており,再解析を検討中である。咀嚼時の舌機能では,粉砕が必要な食品を咀嚼することで,咀嚼の前期から後期にかけて舌後方部の筋活動量が大きくなることが分かった。現在,舌以外の組織も含めた協調運動に食品性状が及ぼす影響について解析を行っている。
|