欠損歯列に対する補綴治療は,方法により必ず利点および欠点が存在する.患者背景により,類似した症例においても決定される治療方法は異なる.本研究では,患者が「患者の価値観」によって適切に治療方針を決定できるよう,個別に咀嚼機能に関する予後を説明可能とすることを目指した. 本研究では,特に習慣性咀嚼側が口腔機能の個別化した予後予測に影響を及ぼすとの仮説のもと,体力測定会に参加した健常高齢者のうち,272名 (男性52名,女性220名,平均年齢76.5±5.3歳) を分析対象者とし,左右別の咀嚼能率および咬合力に加えて習慣性咀嚼側を調査した.参加者の可撤性有床義歯装着の有無および欠損様式により分類した結果,義歯なし群が164名,中間義歯群は20名,右側遊離端義歯群は16名,左側遊離端義歯群は18名,両側遊離端義歯群は29名,総義歯群は25名であった.義歯なし群と比較した参加者の分類別の年齢は,中間義歯群が有意差を認めた.また,BMIは群間で有意差を認めなかったが,握力は総義歯群が義歯なし群と有意差を認めた.各群における左右別の咬合力および咀嚼能率は,右側遊離端義歯群のみともに有意な左右差を認めた.習慣性咀嚼側は,義歯なし群では右側が55.5 %,左側が30.5 %,どちらともいえないが14.0 %であり,その割合は義歯なし群以外全ての群と有意差を認めなかった.咬合力および咀嚼能率の右側高値群と左側高値群の習慣性咀嚼側の割合は,咬合力および咀嚼能率ともに有意差を認めた . 以上の結果より,右側遊離端症例における咀嚼機能は左右差が大きいことが明らかになった.また,片側遊離端症例においては必ずしも非欠損側で咀嚼しているわけではなく,習慣性咀嚼側に欠損様式の違いが及ぼす影響は大きくない一方で,咀嚼機能の非対称性と習慣性咀嚼側は関連することが明らかになった.
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