歯科用貴金属合金を用いたクラウンやブリッジなどを装着する際,有機硫黄化合物による表面処理が接着強さの向上に有効である。有機硫黄化合物は貴金属合金表面で構造が変化し、貴金属に直接吸着する。そして,レジンと共重合することで接着性の向上に寄与することが明らかとなっている。そこで本研究の目的である簡便かつ接着耐久性に優れた歯科用貴金属合金への臨床術式の確立のために、まずは歯科用貴金属合金を構成する純金属に着目した。 本邦で多用されている金銀パラジウム合金をはじめとした主な歯科用貴金属合金には,機械的性質の向上を目的として銅が含有されている。その銅の接着には,有機硫黄化合物が有効であると報告されている。一方で,加熱などの処理により貴金属表面を酸化させることで,酸性機能性モノマーが有効となることが報告されている。また,アルミナブラスト処理は,機械的維持力の向上や清掃効果をもたらすだけでなく,貴金属合金に含まれる銅を酸化させることにより,酸性機能性系モノマーの有効性に寄与することが近年の報告で示唆されていた。 本研究では被着体として銅を,装着材料としてトリ-n-ブチルホウ素重合開始型アクリルレジンを用いた。銅表面を処理によって変化させることで,機能性モノマーの接着機構におよぼす影響についての比較検討を行い,表面性状の分析からその相互作用について調査した。その結果,酸化銅(I)の状態であれば有機硫黄化合物が有効であるが,リン酸エステル系モノマーの効果が得られない一方で,酸化銅(II)の状態であればリン酸エステル系モノマーが有効であるが,有機硫黄化合物の効果が得られないことが明らかとなった。 本研究の結果から,銅含有の貴金属合金をアクリルレジンにて接着する際には,アルミナブラスト処理後,有機硫黄化合物と酸性機能性系モノマーの併用による表面処理を行うことが推奨できることを示唆した。
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