本研究では、腫瘍血管内皮細胞が腫瘍微小環境内の乳酸アシドーシスという一般的には細胞毒性がある状況に対して特異な分子メカニズムにより細胞毒性を回避し、それを血管新生能の獲得に利用しているのではと仮説を立て、その分子メカニズムを探ることを目的としている。昨年度までに、正常血管内皮細胞と腫瘍血管内皮細胞を乳酸アシドーシス環境下で培養した結果、腫瘍血管内皮細胞のみが細胞増殖能にpHの低下の影響を受けないことが分かり、腫瘍血管内皮細胞においてpH制御に関連がある遺伝子であるCAⅡが特異的に発現が亢進していることが分かった。それを受けて、今年度は以下の点について解析した。 ①腫瘍血管内皮細胞におけるCAⅡと乳酸アシドーシス環境耐性の関連性解析:CAⅡのsi RNAを用いて、腫瘍血管内皮細胞の乳酸アシドーシス環境での細胞増殖能を解析した。その結果、si RNAにより腫瘍血管内皮細胞の細胞増殖能は顕著に抑制された。以上から、腫瘍血管内皮細胞の乳際アシドーシス環境への耐性にCAⅡが大きく関与していることが示唆された。 ②腫瘍微小環境が腫瘍血管内皮細胞におけるpH制御機構に与える影響の解析:腫瘍の培養上清により正常血管内皮細胞を24時間培養後に遺伝子解析を行った。その結果、CAⅡの遺伝子発現が亢進した。腫瘍培養上清にはVEGF-Aが豊富に含まれていることから、VEGF-AとCAⅡの関連をVEGFの中和抗体と阻害薬を用いて解析したところ、VEGF-AによるCAⅡの遺伝子発現亢進がキャンセルされた。 ③in vivoによるCAⅡをターゲットとした腫瘍血管新生阻害療法の解析:CAⅡの阻害薬であるアセタゾラミドを用いてin vivo解析を行った。その結果、アセタゾラミドは腫瘍血管新生や腫瘍増殖には効果は示さなかったが、肺転移を抑制することが分かった。
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