セツキシマブは本邦では頭頸部癌に保険適応が認められている唯一のEGFR に対する分子標的治療薬である。臨床において有効性が高く評価されている一方、副作用として皮膚症状、心障害が高頻度に起こり治療の妨げとなっている。これらの副作用を抑制できれば他の抗癌剤よりも、良好な予後(生存期間の延長、社会復帰など)が得られるものと推察される。しかし一般にはEGFR を分子標的とするため、これらの障害が起こることは必然であり、抗腫瘍効果を維持したまま副作用を抑制する治療法は困難であると考えられてきた。本研究では、EGFR を起点とするセツキシマブ作動ネットワークにおける皮膚毒性カスケードと心毒性カスケードが抗腫瘍効果カスケードと分岐することを利用して、皮膚症状や心毒性を抑制しかつ抗腫瘍効果を維持・増強する併用治療薬の開発を目的とし以下の成果を上げた。 【皮膚毒性について】1.皮膚上皮細胞と線維芽細胞にセツキシマブを作用させ、細胞形態変化について確認した。2.標的候補遺伝子(p38)shRNA導入により形質転換細胞を作成し、セツキシマブを作用させたときに抗腫瘍カスケードをブロックすることなく皮膚毒性カスケードを抑制することができるかをWB法、MTS assayで確認した。 【心毒性について】1.心毒性カスケードと抗腫瘍カスケードの分岐点から下流の遺伝子を分子標的として、分子標的候補遺伝子(TRPM6)shRNA導入により形質転換細胞を作成し、セツキシマブを作用させたときに抗腫瘍効果カスケードをブロックすることなく心毒性カスケード(EGFR-p13K-AKT-TRPM6)を抑制することができるかをWB法、メタロアッセイ法にて確認した。
|