研究課題
マクロファージ (MΦ)は免疫を賦活するM1型と抑制するM2型の二極に分化する。M2型は様々な種類の癌の進展に寄与するとされるが、近年ではM1型についても腫瘍を促進する可能性が言われ始めており、M1MΦが口腔癌の発生や進展にどのような役割を果たしているのかは興味深いところである。これまでに研究代表者は口腔潜在的悪性疾患である舌白板症において、M2マーカーCD163を発現するMΦが主に病変部上皮直下に浸潤し、上皮細胞のIL-10の発現を誘導することで発癌に関与することを明らかにした。令和元年度は、生検および連続的な切除術が施行された舌白板症標本を用いた検討を行い、浸潤癌まで進展した症例では上皮下のみならず上皮内にまでCD163陽性MΦの浸潤が及ぶことを見出した。一方で、口腔癌や白板症との鑑別が問題となる良性病変では非浸潤性の白板症に同じく、CD163陽性MΦは上皮内にはほとんど浸潤していないことも明らかとなった。ここまでの成果は口腔の発癌過程においてMΦが生物学的なプロモーターとして関与し、発癌過程におけるMΦの局在の変化が舌白板症生検における悪性スクリーニング(病理診断)の新たな標的となり得ることを示している。そこで、発癌過程における癌細胞/MΦの相互作用を解析する目的でヒト口腔癌細胞株とCD163発現ヒトMΦ様細胞株を用いた共培養系を確立した。興味深いことに、両細胞の直接共培養で最も分泌が亢進していた分子はM1MΦが産生するとされるCCL20であった。免疫組織化学的にヒト口腔癌組織においてCCL20が周囲の非腫瘍部に比較して強く発現することも確認され、MΦのM1形質が口腔癌の早期診断や予防の標的になることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
令和元年度内に当該研究に関する成果を筆頭著者かつ責任著者として国際誌に3編掲載した。白板症以外の比較的稀な口腔前癌病変においても当該研究で得られた結果を支持する病理組織学的所見を得ることができ、現在論文投稿中である。さらには、ここまでの成果を発展させ、口腔癌細胞株とCD163陽性マクロファージ様細胞株を用いたin vitroによる解析から、両者の直接共培養にて最も分泌が亢進する分子としてCCL20を見出すことができた。ヒト臨床検体を用いたin vivo解析でもin vitroの解析結果を支持するデータが得られた。CCL20はM1マクロファージ由来分子として報告されており、上皮細胞との相互作用により誘導されるマクロファージのM1形質が口腔癌の発生や進展に関与する理論的根拠となる基礎データが得られたものと考える。
次年度以降は、共培養系におけるCCL20の主な産生源を確認するとともに、口腔癌細胞株とMΦ様細胞株におけるCCR6 (CCL20に対する唯一の受容体)の発現を検討する。さらには非腫瘍性上皮、上皮内腫瘍、浸潤癌の各段階の病理標本を用いてCCL20やCCR6の発現を免疫組織化学的に解析し、口腔発癌におけるこれらの分子の発現の意義を明らかにする。
(理由) 前年度末に本研究課題に関する新たな成果が得られ、現在論文を投稿中である。よって、 次年度の研究成果掲載に関する費用が当初の予定よりも増額する可能性が高いため、一部を次年度に繰り越すこととした。
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