研究課題
神経分布は腫瘍の拡大様式に大きく関わり、腫瘍の進行度や予後を病理学的に診断する際の評価項目に含まれているが、腫瘍実質の増殖に対する神経の直接的な作用は不明な点が多い。申請者はこれまでの研究において、腫瘍の浸潤による間質の反応が、腫瘍の性格を規定する因子に影響することに気付いた。さらに組織傷害による末梢神経の活性化が骨髄由来細胞を傷害部局所へ動員し、骨髄由来細胞が様々な細胞に分化する現象に着目し、腫瘍の存在下で活性化した神経により骨髄由来細胞が腫瘍組織へ動員され、様々な間質細胞に分化して腫瘍微小環境を形成することが腫瘍進展に重要な役割を果たすと考えた。平成31年度では、GFPトランスジェニックマウスの骨髄細胞を用いて野生型マウスに骨髄移植を行った。GFPマウスと同系の野生型マウスにX 線照射を行った後、GFPマウスから採取した骨髄細胞を野生型マウスに移植することにより、GFPの発光を標的にして骨髄細胞の追跡が可能なマウスを作製した。令和3年度では、ヒト口腔扁平上皮癌細胞株であるSASをヌードマウスの頬部皮下に移植して担癌マウスを作製し、腫瘍が下顎骨に浸潤しているのを確認した。次年度は担癌マウスを用いて、神経と腫瘍の関係について検討を行う。
3: やや遅れている
これまでの研究により、GFP トランスジェニックマウスの骨髄細胞を野生型マウスに移植し、GFPの発光を標的にして骨髄細胞の追跡が可能なマウスを作製することが可能となった。さらに昨年度の研究により、ヒト口腔扁平上皮癌細胞株であるSASを培養し、ヌードマウスの頬部皮下に移植して担癌モデルマウスを作製し、下顎骨に腫瘍が浸潤した際に動員される細胞の精査が可能となった。今後の検討では担癌モデルマウスに対して神経の切断あるいは麻痺を生じさせ、腫瘍の成長への影響を検討する必要がある。昨年度は産前・産後休暇および育児休暇のため、研究を中断せざるを得なかった。次年度は復職したため、研究の再開が可能である。
これまでに確立した手技を応用して、神経の活性化が骨髄由来細胞の動員を介して腫瘍微小環境の形成に関与する機序を検討する。野生型マウスにGFPトランスジェニックマウスの骨髄細胞を移植したGFP骨髄移植マウスに対して、口腔癌を頬部に移植・定着させた腫瘍モデルマウスを作製する。この腫瘍モデルマウスを用いて、腫瘍組織の神経支配が腫瘍進展におよぼす効果、骨髄由来細胞の局所への誘導と分化、腫瘍微小環境構築への影響を、病理組織学的に検討する。摘出した腫瘍組織を用いて末梢神経の働きに関連して骨髄由来細胞の誘引を引き起こす因子の同定を細胞生物学的、分子生物学的解析法を用いて行う。
産前・産後休暇および育児休暇により研究を中断せざるを得なかったため、本年度に使用した消耗品やマウスの匹数は当初の予定よりも少なくなった。次年度使用額に関しては消耗品および動物実験に必要なマウスや器具の購入に使用する。
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JCI-insight
巻: 7(1) ページ: -
10.1172/jci.insight.148960.