まず、口腔癌におけるANGPTL4の代謝関連の液性因子としての役割を調べるために、糖尿病と非糖尿病の舌癌患者の組織を用いて抗ANGPTL4抗体での免疫染色をおこなった。その結果、大変興味深いことに、糖尿病を有する舌癌患者の組織では、腫瘍細胞周囲の間質にANGPTL4が存在する傾向にあった。このことは、口腔癌においてANGPTL4と代謝性疾患との関連を想起させるものである。さらに、ANGPTL4の液性因子としての役割を調べるために、舌癌の肺転移症例での血清ANGPTL4の濃度を調べたところ、肺転移症例では血清ANGPTL4の濃度が高い傾向にあった。 低酸素誘導因子-1(hypoxia- inducible transcription factor-1;HIF-1)はがん細胞の代謝変動における中心的な役割を果たしていることが知られているが、口腔癌の細胞株であるCa9-22細胞株では低酸素環境下でANGPTL4の発現が転写レベルでもタンパク質レベルでも発現が上昇していることを確認した。これにより、ANGPTL4が細胞外環境と密接にリンクして発現が制御されていることを示唆された。 ANGPTL4は、トリグリセリドの加水分解酵素であるリポプロテインリパーゼを阻害することが知られており、ANGPTL4の脂質代謝を介した悪性形質獲得の機構に関与しているのではないかと考えた。Ca9-22細胞株で、RNA干渉法でANGPTL4のノックダウンを試み、ウエスタンブロット解析にてANGPTL4がノックダウンされていることを確認した。次にANGPTL4ノックダウン細胞の上清を用いて脂肪酸合成酵素、遊離脂肪酸、活性酸素およびAcyl-CoAとAcyl CoA synthetaseの活性について調べたが、コントロールと比較して有意な変化は認められなかった。
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