研究課題/領域番号 |
19K19170
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
五十嵐 健人 鹿児島大学, 医歯学域歯学系, 助教 (00822876)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | KCC2 / 初代培養神経細胞 / 新奇物体認識試験 / 放射線照射 |
研究実績の概要 |
放射線治療はがん治療において有効な治療法の一つである。しかしながら放射線による神経細胞や脳機能の障害について特定のメカニズムが存在するのかどうか詳細に理解されているわけではない。KCC2は抑制性神経伝達物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)の応答を調整するK+-Cl-トランスポーターである。KCC2の低下はてんかん、虚血、急性ストレス障害、神経障害性疼痛など様々な病態と関連しているとされ、治療標的として関心が高まっている。本実験計画ではこのKCC2を一端として放射線による神経障害の病態を理解することを目指している。 2019年度は本実験計画の初年度にあたり、初代培養したラット胎児脳由来神経細胞を用いて、定量PCR・ウエスタンブロット・免疫蛍光染色によりX線を照射の影響を調べた。初代培養細胞において、X線 (1.5Gy) 照射 6時間後から12時間後にかけてKCC2 mRNAとタンパク質の減少がみられた。KCC2は神経細胞の表面において細胞内のCl-イオンを排出する機能を担っていることから、KCC2の減少はX線照射後に起こる何らかの神経機能障害に関与するのかもしれない。先行研究ではOxytocinの投与がKCC2 S940残基のリン酸化により膜表面への移行を促進すると提唱されていた。初代培養細胞において、X線照射 (1.5Gy) 直後にOxytocin を投与した初代培養神経細胞において免疫蛍光染色したところ、細胞表面のKCC2シグナルに増加が見られた。次にC57BL/6系マウスの行動学的解析を実施した。γ線照射(1.5Gy x 3) したマウスでは新奇物体認識能が低下していたが、照射ごとにOxytocinを投与したマウスでは回復がみられた。一方で物体位置認識試験に関して回復はみられず、Y字迷路試験では照射前後で変化が見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
行動実験では新奇物体認識試験・スリーチャンバー試験・高架十字迷路試験・受動回避学習試験の実施を計画していた。スリーチャンバー試験・高架十字迷路試験では、実験群間でマウスの行動量の変化を評価するのが困難であった。受動回避学習試験については研究室において過去に購入された装置を利用できるように準備している。新奇物体認識試験では物体を覚えさせるため同じ物体を2日連続で提示した後に新奇物体を提示することにより既知あるいは新奇の認知を評価できるようになった。物体位置認識試験およびY字迷路試験においてもマウスが十分な学習できているのか手順を再検討する。 また放射線照射によりGABAに対する応答が変化するかどうか調べることを計画していた。2019年度においては、初代培養細胞におけるグルタミン酸への応答をFluo-4プローブにより観察した。今後同様の負荷条件においてGABA等への応答を確認し、放射線照射による障害あるいは各種薬物の神経保護作用の評価系構築にむけて実験を進める。
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今後の研究の推進方策 |
X線照射した初代培養神経細胞では6-12時間後にかけてKCC2 mRNAが減少し、その後増加が見られた。mRNA量の制御に関しての知見が新たに得られたことは興味深い。今後mRNA制御に関わるメカニズムについて継続して解析するとともに、マウス海馬においてもKCC2 mRNAの変動が見られるかどうか調べる。またOxytocin等KCC2の機能調節に関わる薬物の探索および機能調節に関わるシグナル伝達経路について解析を進めていく。上記解析によりKCC2のmRNAレベルでの変動と病態との関連について新たな知見を得ることを目指す。
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