研究実績の概要 |
放射線治療はがん治療において有効な治療法の一つである。しかしながら放射線による神経細胞や脳機能の障害について特定のメカニズムが存在するのかどうか詳細に理解されているわけではない。KCC2は抑制性神経伝達物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)の応答を調整するK+-Cl-トランスポーターである。KCC2の低下はてんかん、虚血、急性ストレス障害、神経障害性疼痛など様々な病態と関連しているとされ、治療標的として関心が高まっている。本実験計画ではこのKCC2を一端として放射線による神経障害の病態を理解することを目指している。 これまで我々は幼若マウスおよびマウス新生仔脳由来初代培養神経細胞を用いて解析し、頭部ガンマ線(1.5Gy)照射マウスではKCC2の発現が低下しており、新奇物体認識試験の成績が低下すること、頭部ガンマ線照射後にオキシトシンを経鼻投与したマウスではKCC2発現と試験成績の回復を見出していた。今後KCC2の遺伝子発現制御に関わる細胞内シグナル因子の解析には各種キナーゼ阻害剤が有効なツールとなりうるが、脳室移行性について不明の化合物も多くあり、動物個体よりも培養細胞を用いた検証を考えた。初代培養では一度に作製できる細胞量に限界があったため、2022年度はヒト神経芽細胞腫由来の培養細胞を新たに導入し、これまで蛍光試薬のDCFH-DA (2,7-Dichlorodihidrofluorescein diacetate)を用いて細胞のトータル活性酸素種(ROS)量を解析した。またKCC2発現量について定量PCRに基づき解析した。今後新たな研究課題にて定量PCRやウエスタンブロット、各種キナーゼ阻害剤を用いてKCC2発現制御のメカニズムについて解析を計画している。
|