前年度(2021年度)までに実施した間葉系幹細胞(MSC)が有する損傷神経再生能力の発現に関わるサイトカインモデル分子の絞り込み作業では、トランスフォーミング成長因子-β1(TGF-β1)は、MSCにおけるインターロイキン-6(IL-6)の発現をMEK依存的に増強することが明らかとなった。そこで、最終年度(2022年度)では、このMSC由来のIL-6が、どのようにMSCによる神経組織再生効果の発現に関わるのかについて、神経成長因子(NGF)依存性の神経突起伸長モデル細胞であるPC12細胞を用いて明らかとした。 本研究代表者は、以前に、TGF-β1が、Smad2/3やp38 MAPK依存的に、MSCのNGF発現・分泌能力を高めることを報告している。このことは、TGF-β1刺激下のMSCでは、NGFとIL-6の両方の発現・分泌能力が上昇していることを意味するものである。そこで、TGF-β1で刺激したMSCの培養上清を採取して、PC12細胞に与えたところ、強い神経突起伸張効果が認められた。次に、PC12細胞にIL-6並びに可溶性IL-6受容体を同時投与しても、神経突起伸張効果は認められなかった。しかし、興味深いことに、TGF-β1刺激下のMSCより採取した培養上清が示すPC12細胞に対する強い神経突起伸張効果は、可溶性IL-6受容体の中和抗体の投与により有意に抑制された。これらの結果より、IL-6受容体を介したIL-6による刺激自体は、PC12細胞における神経突起伸張能力には影響を及ぼさないが、このIL-6による刺激は、NGFが示す神経突起伸張効果をさらに増強することが、強く示唆された。これらの研究成果は、IL-6とNGFの併用による新たな神経組織再生療法の確立に役立つものである。
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