研究課題/領域番号 |
19K19188
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
山田 峻之 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 非常勤講師 (10826829)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ビスホスホネート製剤関連顎骨壊死 / PTH / アドレナリンβ2アゴニスト / アルカリホスファターゼ |
研究実績の概要 |
2003年にビスホスホネート系製剤(BPs)の注射製剤の重大な有害事象の一つとしてBP製剤関連顎骨壊死(BRONJ)をMarxが報告して以降、様々な報告やガイドラインの作成などがあったが、顎骨壊死に対する治療方針に大きな変化は認められていない。近年、ヒト副甲状腺ホルモン(PTH)が骨粗懸症治療薬として使用され、PTHをヒト顎骨壊死に応用し、良好な結果が得られたという報告が散見される。しかし、PTHの適応・使用には制限があり、PTHに代わる新たな代替薬の開発が望まれている。 PTHと同様のシグナル伝達経路を持つ製剤の一つにアドレナリンβ2受容体アゴニストであ るイソプロテレノール(ISO)などが知られている。ISOを用いた骨芽細胞分化の研究は数多く報告されており、マウス骨芽細胞様MC3T3-E1細胞へのISO単独投与では骨芽細胞の骨細胞への分化を抑制する。これは、MC3T3-E1細胞のBMP誘導性アルカリホスファターゼ(Alp)の発現抑制により確認されている。一方、MC3T3-E1 細胞へのISOの間欠的投与ではAlpの発現は抑制されない。このように、間欠的投与によって作用が逆転する現象が、ISO以外では、in vitroにおいてPTHが報告されている。in vivoにおけるISOの間欠的投与の骨組織へ対する作用はまだ知られていない。そこで本研究ではマウス顎骨壊死モデルを作成し、アドレナリンβ2受容体アゴニストの間欠的投与による顎骨壊死の治療効果、他の骨への影響を明らかにすることを目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在、マウス顎骨壊死モデルを作成するにあたって、マウス上顎智歯抜歯モデルを作成し、実験系のプロトコール作成を行っている。 現状、以下の問題点が挙げられる。一つ目は、マウス顎骨壊死モデルの作成が不安定であることである。マウスは基本的には無菌室で飼育され、顎骨壊死のための細菌感染を引き起こしにくい環境である。抜歯手技的に、上顎の第3大臼歯の抜歯が一番行いやすいが、顎骨壊死好発部位は下顎臼歯部である。上下顎の骨質による違いも少なからず影響すると考えられる。 二つ目は、抜歯手技によりマウスが死亡してしまうことである。マウスにとっては、全身麻酔はリスクがあり、さらに抜歯のストレスで、覚醒後に短期間で衰弱していくケースが散見される。マウスによっては全身麻酔時に抵抗し、深い麻酔にならざるを得ないこと、麻酔時の拘束などのストレスも影響していると思われる。 三つ目は、抜歯後に食事量の減少が認められること。覚醒後は食事量の減少傾向が認められ、体重の減少傾向が引き起こされた。これによって、体重減少による全身的な影響により、特に骨量低下などに新たな要因が加わりかねない。 四つ目は、間欠投与の場合、定時で薬剤投与を行うことがストレスを与えかねないことである。全身麻酔と同様、拘束して針の刺入を行うため、死亡する個体も存在する。また、気性が荒くなり、個体の激しい抵抗で決められた薬剤量の投与が不正確になるケースもあった。恐怖心などにより内分泌に影響がでる可能性も否定できない。 以上の予想外の因子により、実験方法、対象などの調整を検討する必要が多々あり、時間を要している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は前述の問題点に対して、改善策を講じる必要が考えられる。一つ目は、下顎智歯などの抜歯部位の変更を考える。また、抜歯窩に顎骨壊死を引き起こし得る細菌の移植なども考慮が必要と思われる。その際は、細菌感染による影響も引き起こされる可能性もある。細菌感染の程度により顎骨壊死のみならず、蜂窩織炎など他組織へ波及する場合、実験系を正確に比較することが困難となる場合も考えられ、検討が必要である。 二つ目は、手技の方法・向上、薬剤量の調節などを考慮する必要がある。一定数の死亡リスクはあるため、実験数の減少が避けられないケースもある。やみくもに増やすだけではなく、より効率的なプロトコール作成をする必要がある。また、手術を抜歯以外に大腿骨などの他部位で代用可能かどうかも検討の余地がある。大腿骨などにする場合、どの程度、口腔内の環境を再現できるか、比較することができるか、などを検討している。 三つ目は、抜歯部位の変更や、大腿骨などの他部位にすることによって、体重減少が妨げられるか検証が必要になってくる。顔面に近い部位の手術は、動物にとって大きなストレスになると思われるが、大腿部の手術の場合は、個体自身が触れることができるため、創部の安静を妨げる行為が認められた。その行為を予防する方法や他の部位も考慮する必要がある。 四つ目は、前述と同様、一定数の死亡リスクを考えた上で、実験数を増やすなどの対策が必要と思われる。 以上の対策に加え、マウスではなく、ラットやウサギなどの大型動物への対象変更なども方法の一つと思われるが、実験系に対する報告数が少なくなる可能性、使用薬剤の増加なども考えられ、今後の検討課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在の研究におけるプロトコール作成にて、前述したようないくつかの問題点が生じた。そのため、現在はその検証中でもあり、まずは先行報告などの情報検索を優先しているため、実験費用などが予定通りに生じていないことが、次年度使用額が生じた理由の一つとして挙げられる。 また、社会的な要因としては、昨年度、所属先の研究室から現在出向している勤務地へ赴任して初年度であった。そのため、研究に対する環境整備に時間を要している。科学研究費の申請した所属中の研究室では、現在常勤として勤務していないため、毎日の実験が困難な状況である。時間的配分に制約があったことも理由の一つである。 今後は収集した情報をもとに、新たなプロトコール作成と、トラブルシューティングのための検証実験を行うために、次年度使用額を利用する予定である。さらに、動物実験という特性上、予期せぬ死亡や実験条件の未完遂などの個体が生じると予想されるので、実験数がある程度必要と思われる。 実験の進行に関しては、外部施設への注文・依頼など、効率化を図る予定である。
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