研究課題/領域番号 |
19K19203
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
坂元 裕 長崎大学, 病院(歯学系), 医員 (40836748)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 口腔癌細胞 / リソソーム転写因子 / TFEB |
研究実績の概要 |
癌細胞が患者の生命を奪う最大の要因は浸潤と転移であるが、この2つを防ぐ有効な治療法は未だない。我々は独自の研究から、扁平上皮癌の浸潤能と相関する転写因子TFEBを同定した。TFEBはリソソームタンパク質を制御するマスター分子として機能する。我々はin vitro の実験で、扁平上皮癌細胞においてTFEBを抑制すれば浸潤能が劇的に低下することを見出した。本研究の目的は、我々が見出したTFEBの扁平上皮癌による浸潤と転移の関与について、マウス個体を用いて明らかにする事である。そのために担癌モデルマウスや生物発光イメージング法を用いて、生体内での機能と病態の関係を解明する。本研究は不明な点が多く残されていた癌細胞の浸潤と転移を制御するTFEBに関する生体内の詳細なメカニズムを解明する。現在行っている実験については以下に記載する。 1.TFEB遺伝子操作扁平上皮癌における浸潤能 CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集により、TFEBノックアウト扁平上皮癌細胞を作製している。口腔扁平癌細胞株であるHSC2, HSC3, HSC4, OSC20, SAS,SCC25の6種類に対してコントロールとノックアウト細胞で比較し、浸潤能はMatrigel invasion chamberを使用して測定している。またリソソーム性プロテアーゼをどの程度分泌しているのか、カテプシン群の基質を用いて活性を測定している。 2.ヌードマウスを用いた担癌モデルによる浸潤・転移の評価 マウスの皮内・口腔内(舌)・静脈内にコントロール細胞とTFEBノックアウト細胞を移植した担癌マウスモデルを作製し、抗腫瘍効果を比較している。抗腫瘍効果の評価と並行して、血液学的検査、血液生化学的検査、病理組織学的検査等も実施している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、TFEB遺伝子操作扁平上皮癌における浸潤能に関しては、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集により、TFEBノックアウト扁平上皮癌細胞を作製を終了した。また、口腔扁平癌細胞株であるHSC2, HSC3, HSC4, OSC20, SAS,SCC25の6種類に対してコントロールとノックアウト細胞で比較し、浸潤能についてMatrigel invasion chamberを使用して測定した結果、TFEBノックアウト細胞で有意に低下していることが分かった。またリソソーム性プロテアーゼ活性について、カテプシン群の基質を用いて活性を測定したところ、やはりTFEBノックアウト細胞で有意に低下していることが分かった。 ヌードマウスを用いた担癌モデルによる浸潤・転移の評価に関しては、マウスの皮内・口腔内(舌)・静脈内にコントロール細胞とTFEBノックアウト細胞を移植した担癌マウスモデルを作製しており、血液学的検査、血液生化学的検査、病理組織学的検査等、現在解析中である。
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今後の研究の推進方策 |
・マウスを用いた生物発光イメージングでの浸潤能の解析 扁平上皮癌細胞の転移能と浸潤能を解析する目的で、マウスにコントロールおよびTFEBノックアウト細胞を作製する。その際、コントロールおよびTFEBノックアウト細胞にはホタルルシフェラーゼを発現するベクターを加える。これらの細胞を正常マウスに移植し、非侵襲的かつ高感度に原発巣から離れた場所で転移が形成されるか知る事ができる(図5参照)。この方法によって癌細胞の転移能力を継続的に評価できる。また時間経過とともに肉眼的大きさと最終的な病理像についても解析する。さらに癌細胞が転移した臓器も同様のイメージング像を用いて定量的に解析する。 ・増殖能抑制薬とTFEBノックアウト癌細胞での転移能抑制効果 TFEBは増殖能には影響しない。このため、扁平上皮癌で良く用いられる5-フルオロウラシルあるいはシスプラチンなどの細胞増殖を抑制する薬物との併用効果で転移能が劇的に抑制されると予測できる。具体的には正常マウスにコントロールおよびTFEBノックアウト細胞を移植し、5-フルオロウラシルあるいはシスプラチンを投与して、生物発光イメージングでの浸潤能の解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
未使用金額が189054円ある。これはヌードマウスの使用した個体が予定より若干少なかったためである。令和2年度は解析を進めるため、解析用試薬や消耗品費として使用する予定である。
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