癌細胞が患者の生命を奪う最大の要因は浸潤と転移であるが、この2つを防ぐ有効な治療法は未だない。我々は独自の研究から、扁平上皮癌の浸潤能と相関する転写因子TFEBを同定した。TFEBはリソソームタンパク質を制御するマスター分子として機能する。本研究の目的は、我々が見出したTFEBの扁平上皮癌による浸潤と転移の関与について、in vitro つまり細胞レベルでの実験と、in vivo すなわちマウス個体を用いた実験を行うことである。口腔扁平癌細胞株であるHSC2、 HSC3、 HSC4、OSC20、SAS、SCC25について解析を行った。まずin vitro の実験として扁平上皮癌細胞においてTFEBを遺伝子ノックダウンにより抑制すれば、浸潤能や遊走能が劇的に低下することを見出した。しかしノックダウン実験はTFEBの発現低下が確認できたが、TFEB遺伝子の過剰発現した細胞は作製できなかった。増殖能についてTFEBノックダウン細胞とコントロール細胞を用いて比較したが、両者の間に有意な差は認められなかった。次にヌードマウス移植した担癌マウスモデルを作製して抗腫瘍効果を比較し、ほぼ同様の結果を得た。以上の内容を補助事業期間全体を通じて実施した。特に最終年度にはマウスによる生体での実験が実施できた。これらの結果から、不明な点が多く残されていた癌細胞の浸潤と転移に関して、TFEBが関与する詳細なメカニズムの解明に本研究は有益な情報となると考えられる。
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