xCTはシスチンの取り込みを行う細胞膜輸送体である。xCTを介して取り込まれたシスチンはグルタチオンの合成に使用され、合成されたグルタチオンは過酸化物質の解毒に利用される。過酸化物質の蓄積は細胞内の酸化ストレスを上昇させ、フェロトーシスと呼ばれる新たな細胞死を引き起こす原因となる。近年、フェロトーシスの誘導が癌制御において有用であるとの報告が散見されるようになった。さらに、上皮間葉転換(Epithelial-Mesenchymal Transformation:EMT)は癌の転移に深く関与していることが知られている。EMTを起こしている癌細胞は浸潤・転移能の亢進が認められる。EMTによって間葉系細胞の性質を獲得した癌細胞はフェロトーシス誘導剤に対する感受性が高くなることが近年分かってきた。そこでわれわれは口腔癌細胞においてxCT阻害による抗癌作用ならびにEMTを起こした口腔癌細胞に対するフェロトーシス誘導治療の有用性を明らかにすることを目的として実験を行った。 口腔癌細胞株HSC-2・SASに対してxCT阻害剤(Erastin)を投与することでxCTの機能阻害が認められ、細胞生存率の低下、細胞内酸化ストレスの増加を認めたことから、Erastinは口腔癌細胞にフェロトーシスを誘導することが明らかとなった。次に、HSC-2・SASにTransforming Growth Factor-β(TGF-β)の投与によるEMT誘導を行った後に、Erastinの投与を行うことで非EMT状態の細胞と比較して明らかにフェロトーシス誘導率の増加を認めることを見い出した。
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