まず初めに、末梢神経で最も広く研究されている坐骨神経を対象として、パイロット実験を行った。損傷前の坐骨神経でHedgehog(Hh) signalの活性をGli1creER;R26RYFPマウスで確認したところ、perineurial cellとpericyteがHhシグナル活性マーカーであるGli1陽性であることがわかった。さらに、これらの細胞はPDGFRα陽性であり、組織幹細胞様の性格を持った細胞であることも確認された。神経損傷後には、これらの細胞は神経損傷断端から損傷部に向かって遊走し、神経両断端を繋ぐnerve brodgeを形成していた。この遊走を経時的に観察したところ、神経損傷後2日に遊走を開始し、3日には両断端がbridgeで接続されている様子が認められた。さらに、損傷後のGli1陽性細胞は、PDGFRα陰性であり、幹細胞様の性格を失っていた。神経損傷時には、血管、シュワン細胞、神経軸索の順に損傷断端から損傷部に向かって伸長すること知られているが、Gli1陽性細胞の遊走は血管に伴っており、シュワン細胞と軸索よりも早期に損傷部集まってくる様子が観察できた。 さらに、Gli1陽性細胞特異的にHedgehogシグナルを不活化したマウス(Gli1creER;R26RYFP;Smofl/flマウス)を用いて同様の実験を行ったところ、損傷部に集まるGli1陽性細胞の数が減少し、また遊走の方向性が乱れていた。さらに、Gli1陽性細胞に続く血管新生および軸索伸長も抑制されており、急性期だけでなく慢性期に渡って神経再生が阻害されていることが確認された。
|