昨年度までの研究の中で、神経損傷時の脱分化シュワン細胞はヘッジホッグ(Hh)シグナルを強力に活性化しており、このシグナルがシュワン細胞の増殖と分化の調節を行なっている事を見出した。一方、正常末梢神経内のシュワン細胞ではHhシグナルの活性は認められなかった。しかしながら、正常神経においてもHhシグナルのリガンドであるDhhは分泌されており、シュワン細胞はそのレセプターであるPtch1を細胞表面に発現していた。これは、シュワン細胞がHhシグナルを活性化できる状況にありながら、何らかの機構によって活性が抑制されていることを示している。そこで、正常神経内のシュワン細胞でHhシグナルを抑制することが、分化シュワン細胞の機能維持、末消神経の恒常性保持に必要なのではないかと考えた。このHhシグナル抑制機構を解明する足掛かりとして、Hhシグナルの下流転写因子であるGli3に着目した。Gli3はHhシグナルの活性を調節する役割を持っており、シグナル活性の状況に応じてタンパクコンフォメーションを変化させて、シグナル活性を促進したり(active form Gli3 ; aGli3)、逆に抑制する(repressor formGli3; rGli3)という背反する作用を有する。正常神経内でのGli3の発現を調べたところ、シュワン細胞はrGli3を発現していた。rGli3は脱分化シュワン細胞で発現が低下しておりGli3のヘテロ変異マウス(Gli3-/+マウス)ではHhシグナルの活性指標となるGli1の発現が上昇していた。すなわち、、Gli3の発現レベルとHhシグナルの活性は反比例していた。
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