研究課題
OSCCにおけるIL-6依存的な放射線耐性のメカニズムを、申請者らはIL-6阻害剤であるヒト化抗IL-6受容体抗体 (トシリズマブ)を用いてin vivo実験系で検討を行った。予備実験として、免疫不全マウスの背部皮下にOSCC細胞株を移植し、OSCCが生着し、一定サイズ(基準:150mm3)に増大した時点から、ヒト抗IgG抗体 100 μl、ヒト化抗IL-6受容体抗体100 μg/100 μlを腹腔内投与した。同時にX線4Gy/日、合計60 Gy照射した。トシリズマブは48時間毎に投与し、48時間毎に移植腫瘍の大きさ、体積を計測した。トシリズマブ投与群において、対照群と比較して腫瘍増殖が経時的に有意に抑制され、縮小を認めたことを確認した。予備実験でもトシリズマブ投与による放射線増感効果を認めていたが、本検討はより効果的なプロトコルであり、根治的線量のX線照射時にトシリズマブの併用が有効であることが明らかとなった。また、得られたX線60Gy照射時の腫瘍片を用いて免疫組織学的染色を行ったところ、トシリズマブ投与群において、リン酸化STAT3およびリン酸化Nrf2の発現が低下していることが明らかとなった。トシリズマブは、IL-6依存的放射線抵抗性におけるNrf2抗酸化経路を抑制することに関与していることが示唆された。
3: やや遅れている
やや遅れていると考える。これまでのin vitroでのIL-6のKeap1-Nrf2システム活性化機構に関する知見は、免疫不全マウスを用いた異種移植モデルにおいて、トシリズマブ投与は有意に放射線感受性を向上させた。さらに、より実臨床的なプロトコルの検証でも、同様の結果を得ることができた。その際、得られた腫瘍片サンプルを使用したOSCC放射線抵抗性分子ネットワークの解析を行ったが、in vivoマウスモデルにおいても、OSCCにおいてトシリズマブはIL-6刺激による下流のSTAT3経路、Nrf2抗酸化経路を抑制することで放射線感受性を増感させる可能性が示唆された。しかしながら、現時点で、移植片サンプルを用いたDNAマイクロアレイ解析を行うことでIL-6依存的な放射線抵抗性の機構解明が実行できていない。
IL-6阻害剤であるヒト化抗IL-6受容体抗体 (トシリズマブ)を用いたin vivo実験系において、放射線照射後の得られた腫瘍片サンプルを使用してDNAマイクロアレイ解析を行う。さらに、がん微小環境においてOSCC細胞のNrf2抗酸化経路を介した放射線耐性機構の更なる解明を継続して行っていく。詳細としては、①IL-6とNrf2抗酸化経路との関連性をより検討するためにOSCC患者の生検標本を用いたNrf2、リン酸化Nrf2の免疫組織化学的染色で発現解析を行う、②OSCC培養細胞とこの臨床的放射線耐性株を用いて、OSSCC放射線耐性においてKeap1-Nrf2抗酸化経路の活性化のメカニズムを検討する、③OSCC細胞と臨床的放射線耐性細胞を用いることで、放射線抵抗性OSCC細胞においてNrf2と代謝機構や抗酸化能との関連を検討する、以上を明らかにする予定である。
本年度2月より新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、研究進捗にやや遅れが生じたため物品購入などで残額が大きく生じた。また、同様の理由により研修会が中止なり、人件費・謝金の使用がなくなり残額となった。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Cancers
巻: 12 ページ: 494
10.3390/cancers12020494.
Journal of Oral and Maxillofacial Surgery, Medicine, and Pathology
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