研究課題
矯正歯科治療を短期間で効率的に進めるために、破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨添加を活性化し、骨リモデリングを促進することが考えられる。これまでに、ROCK (Rho-associated coiled-coil containing kinase)阻害剤は、破骨細胞と骨芽細胞の両者の分化促進効果を示すことが明らかにされているが、その詳細な作用機序については未解明のままである。そこで、本研究ではROCK阻害剤の骨代謝への影響を分子レベルで解明することを目的とした。ラットの頭蓋骨欠損モデルを用いて新生骨形成に対するROCK阻害剤の効果を検討したところ、ROCK阻害剤の添加によって頭蓋骨欠損部位における骨形成の回復促進が観察された。また、ラットの矯正学的歯の移動モデルを作成し、ROCK阻害剤による歯槽骨組織への影響を調べたところ、Rab GTPaseであるRab11やRab35の発現が伸展側にて上昇していることが観察された。それらは、細胞内膜輸送に関連することから、伸展側の骨添加に寄与する骨芽細胞由来の基質小胞の分泌が活性化していることが推察された。さらに、ラットの卵巣摘出骨粗鬆症モデルを用いてROCK阻害剤の効果を検討したが、これまでのところ骨密度の回復効果は見られていない。骨芽細胞に対するROCK阻害剤の作用機序を解明するため、骨芽細胞から分泌される基質小胞を単離し、含有されるタンパク質のプロテオミクス解析を行った。その結果、ROCK阻害剤存在下では、アルカリフォスファターゼをはじめ、細胞周期、小胞輸送、細胞外マトリックス形成等に関与するタンパク質が上昇しており、今後もそれらの詳細について検討を進めていく。以上の結果から、本研究は、ROCK阻害剤のひとつの作用機序として、骨芽細胞の基質小胞分泌を促進させ、骨形成を活性化していることを明らかにした。
すべて 2020
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Biochem Biophys Res Commun
巻: 526 ページ: 547-552