歯は上皮間葉相互作用を始めとする連続する生物学的イベントの結果として形成される。発生は歯冠形成から始まり、その後に歯根形成が始まる。歯冠完成後、内外エナメル上皮が癒合したサービカルループが細胞増殖を示し、尖端方向に成長し、ヘルトビッヒ上皮鞘を形成して歯根が形成される。これまでに、細胞増殖抑制効果がある化学療法を行った小児がん患者に、歯牙の部分的な欠損、短根やタウロドント(樋状根)など歯根形態異常、萌出遅延,矮小歯など歯および歯根形成不全がみられることが報告されており、これらの異常による不正咬合等、咀嚼等の口腔機能に障害をきたす事が知られている。本年度の研究では実際に過去に抗がん剤治療の経緯がある患者の歯牙発生の状態をパノラマX線写真を用いて評価すると同時に側貌規格X線写真を用いた顎顔面形態の計測などを行った。その結果抗がん剤の投与時期特異的な歯牙形成不全が認められた。この結果は我々が以前行った動物実験による結果を再現するものであった。また歯牙形態不全が原因と考えられる特徴的な顎顔面形態(相対的に前方位の下顎、短い下顎顔面高)が観察された。この事は抗がん剤の投与時期(歯の発生ステージ)の違いによって現れる歯の表現型に多様性がある事を示している。また歯牙形成不全の程度、表現型によって起こりうる不正咬合や顎顔面形態異常が存在する事を示しており基礎的及び臨床的に応用可能な有意義な結果と言える。
|