顎矯正手術計画の立案に際し、頭部CTに歯列データを統合した複合モデルが利用されているが、口腔内金属によるアーチファクトが存在するとCT画像が不明瞭となり、歯列データの正確な位置合わせが困難となる。しかしながら、どの程度のアーチファクトであれば許容可能かについては報告がなされておらず判断基準がない。本研究ではこの点に着目し、アーチファクトに伴うCT・歯列データの位置合わせ誤差について検証を行った。 CT値が人体と近似するよう調整した歯牙着脱式の上下顎歯列ファントムを作製した。上顎歯列に装着可能な金銀パラジウム合金製補綴物を準備し、その数や分布の異なる9種のアーチファクトモデルを作製してCT撮影を行った。CT画像と歯列データを顎矯正用ソフトウエアにインポートしアーチファクトを手動で除去した後、各モデルについて歯列部分での位置合わせに加えて、アーチファクトの影響を受けないファントム基底部での重ね合わせを行いコントロールとした。歯列上に7点のランドマークを設定し、コントロールと各モデル間で座標値のずれを求めることで、前後/左右/上下方向における位置合わせ誤差を算出した。 その結果、アーチファクトは金属製補綴物の増加に伴い増大し、CT・歯列データの位置合わせ誤差は中央値0.11mm、最大値0.48mmであった。また上下方向の誤差が前後および左右方向に比較し大きい傾向を示した。同条件下における位置合わせ誤差は、臨床上許容できる程の大きさであることが示唆されたが、その要因として、対合に補綴物が存在しないため咬合面形態が把握しやすく、位置合わせ誤差が小さくなったものと考えられた。 このため最終年度では、下顎にも金属製補綴物が存在する条件下にて追加実験を行った。その結果、位置合わせ誤差は中央値0.11mm、最大値1.00mmとなり、とくに上下方向おける誤差が増大した。
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