研究課題/領域番号 |
19K19279
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研究機関 | 鶴見大学 |
研究代表者 |
多田 佳史 鶴見大学, 歯学部, 学部助手 (20826739)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | PEEK / 複合樹脂 / 矯正用ワイヤー / 強化プラスチック / ガラス繊維 / フッ素樹脂 |
研究実績の概要 |
本研究はPEEK樹脂ワイヤーを矯正治療において様々な段階で使用できるように強度の調整を行う目的でガラス繊維やフッ素樹脂を添加した高機能樹脂PEEK樹脂を使用し、その複合材料による矯正用ワイヤーを作製し、矯正治療に使用可能か検討を行った。各々の複合樹脂PEEKも無充填PEEK樹脂と同等の物理的特性を示した。つまり、ガラス繊維およびフッ素樹脂強化PEEK樹脂ワイヤーは曲げ強度、引張強度は無充填PEEK樹脂より大きいにもかかわらず同等の物理的特性を示すことから矯正用ワイヤーとしての有用性が示された。矯正用ワイヤーとしてのPEEK 樹脂が複合化される事により、より大きな剛性および弾性を期待でき、矯正臨床の治療の幅が広がるという意義がある。過去にPEEK複合材料は様々な分野で用いられているが、矯正用ワイヤーほどの細い形状にした例はなく、矯正用ワイヤーとして評価した報告もない。申請者は過去に矯正用ワイヤーほどの細い材料を評価するための様々な試作試験機を開発してきた。それは、試作摩擦試験機や試作3点曲げ試験機であり、矯正治療時に歯に接着して使用する装置(ブラケット)を装着することができる。これにより、通常の材料の評価試験ばかりでなく、より臨床に即した研究評価を行うことができる。 無添加PEEK樹脂に充填物を加えることにより剛性が上がり、弾性も変化する。また機械的強度も上がり、応力緩和試験においても応力の保持率も向上することが予想され、充填物を加えることにより、材料表面もより滑沢になると考えた。ガラス繊維強化PEEK樹脂およびフッ素樹脂強化PEEK樹脂ワイヤーの応力保持率は無添加PEEK樹脂ワイヤーと同等の値を示した。つまり、曲げ強度、引張強度が無添加PEEK樹脂ワイヤーより大きいにもかかわらず、応力保持率が同等のため矯正用ワイヤーとしての意義が非常に高い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今回ガラス繊維強化プラスチックおよびフッ素樹脂強化プラスチックを押出成型にて矯正ワイヤーほどのワイヤーサイズ、つまり断面1.0mm角程度の太さのワイヤーを作製しての評価を行う予定であった。しかし、ガラス繊維強化プラスチックおよびフッ素樹脂強化プラスチックに含まれる、ガラス繊維は押出成型にて作製する場合、充填物により金型自体に傷を付ける恐れがあり、作製方法において再度検討することとした。そこで今回は押出成型にての作製ではなく切削加工を行った。精密切断装置ダイヤモンドバンドソーを用いて、棒状の材料を切削することにより、ガラス繊維強化プラスチックをカットし、断面約0.7mm角のワイヤーに加工し、試料を作成した。評価には改良型3点曲げ装置を用いて、3点曲げ試験および、応力緩和試験をおこなった。3点曲げ試験の、応力ひずみ曲線において、以前報告したNaturalグレードのPEEK樹脂ワイヤーと同等の特性を示した。つまり、充填物によって剛性が上がったにも関わらず、Naturalグレードと同等の特性を示したため、強度が増したにもかかわらずNaturalグレードと同等の挙動を示すため、矯正用ワイヤーとしての適正が示唆された。また、応力緩和試験においても、現在矯正用ワイヤーとして広く用いられているNi-Tiワイヤーと同等の応力保持率を示すことが示唆された。フッ素樹脂強化プラスチックにおいても3点曲げ試験および、応力緩和試験をおこなった。3点曲げ試験の応力ひずみ曲線においても、ガラス繊維強化プラスチックおよび以前報告したNaturalグレードのPEEK樹脂ワイヤーと同等の特性を示した。ワイヤーの製作方法の変更を余儀なくされたため、ワイヤーの切削加工に時間を要してしまったため、進行状況の遅れが生じている。しかし、切削加工の方法を確立しつつあるため、今後予定通り進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
ガラス繊維強化およびフッ素樹脂強化プラスチックの作製において押し出し成型ではなく、削合にての作製を行ってきたが、作製の精度が押し出し成型より劣るため、作製の精度を上げていかなければならない。そのためには切削時により注意を払っていく必要がある。また削合されたワイヤーにおいては今後より詳しく物性を把握するためSEMにおける表面の形状の比較、追加の応力緩和試験、濡れ性試験を行っていく。当初の予定のワイヤーサイズは切削加工で達成することはより、厳密さを必要とするため、限界がある。そこで、新たな強化プラスチックを加えPEEK樹脂と比較を行っていく予定である。特に最近ではプラスチックにおいては環境問題における議論が多いため、より環境に適したプラスチックを考察していく必要がある。そこで、現在プラスチックの中でも素材が環境に適したセルロースナノファイバーを検討する。フィラーがガラス繊維やフッ素樹脂と違い、植物などからなるセルロースを用いることにより、より環境に優しい素材を目指すことが可能となる。このセルロースナノファイバー強化プラスチックを矯正用ワイヤーとして用いることで、歯冠色に近いため審美性はもちろんのこと環境にも優しい治療を行うことができる。また他の強化プラスチックと同様にコーティングによる歯冠色ではなく、本来の色味であるため当然色が剥がれて退色することはない。セルロースナノファイバー強化プラスチックを他の強化プラスチックと同様に3点曲げ試験、摩擦抵抗試験、表面性状、応力緩和、濡れ性試験を行い、既存のPEEK樹脂ワイヤー、繊維強化PEEK樹脂ワイヤー、Ni-Tiワイヤー等と比較検討する。いずれの試験も現在までに行ってきた試験のため問題なく行える試験である。またさまざまな繊維強化プラスチックがあるため他に矯正用ワイヤーとして使用できるものがないか今後の検討課題とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、ガラス繊維強化プラスチックおよびフッ素樹脂強化プラスチックを押出成形にて製作する予定だったが、フィラーとなるガラス繊維が金型を傷つけてしまうため、作製方法の再検討が必要となった。検討を行った結果、押出成型をせず試料である矯正用ワイヤーを作製するために、切削加工にて作製することとした。過去に切削加工にて試料を作製した経験がなく、手探りで行うこととなり、時間を要したが、本来押出成形にかかる費用が必要となくなった。次年度において、ガラス繊維強化プラスチック以外の現在プラスチックにおいて環境という観点からも注目されている新たな材料であるセルロースナノファイバー強化プラスチックも比較検討の対照としたため使用額が生じた。セルロースナノファイバーは自然由来のセルロースを使用するため、プラスチックの次世代材料として、環境に優しい点が大きなメリットとなる。しかし、新しい素材のため加工方法と矯正用ワイヤーとしての物性の検討が必要である。ワイヤーに加工する方法はガラス繊維強化プラスチックにて行った切削加工にて行う予定である。精密切断装置ダイヤモンドバンドソーを用いて、材料を切削することにより、断面約1.0~0.4mm角のワイヤーを作製する。セルロースナノファイバーの材料費および加工費が生じるため、次年度の使用額が生じた。新しい素材のため、さまざまな加工方法を検討してみる予定である。
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