研究課題/領域番号 |
19K19290
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大原 春香 大阪大学, 歯学部附属病院, 医員 (40754726)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 正中顔面裂 / レチノイン酸シグナル / Rdh10 / 歯科矯正 |
研究実績の概要 |
口唇口蓋裂は顎顔面領域で起こる頻度が高い先天性異常で、多様な表現型を示し、それぞれの症状のメカニズムは完全には理解されていない。矯正歯科臨床では両側性口唇口蓋裂患者で上顎骨の正中前方に位置する切歯骨部に特異的に著しい劣成長がみられることがある。過去の研究からレチノイン酸(RA)シグナルが上記病態に関与することが示唆されているが、口唇口蓋裂の発生において胎生時期特異的な役割については未だ大部分が不明である。本研究ではRAの代謝に関与するRdh10遺伝子を機能阻害したマウスの形態および組織学的表現型を詳細に解析し、正中顔面裂および一次口蓋の劣成長の発症に関連するRAシグナルの機能解明を行う。 今年度は、RAシグナルの顎顔面発生における役割を解明する為に、胎生時期および組織特異的にRdh10の機能阻害を行い、正中顔面裂および上顎切歯の欠損を伴うマウスを用いて実験を行った。胎生7.5-8.5日のノックアウトマウス胎児で、正中顔面裂および上顎切歯の欠損または分裂した切歯歯胚を確認でき、その表現型は前頭鼻突起から発生する部位に限局されたものであった。また、切歯の発生に重要な役割を示す前頭鼻突起内の頭部神経堤細胞の細胞死が著しく増加することがわかり、突然変異した前頭鼻突起でFgf8とShhの発現パターンの変化が認められた。以上より、正中顔面の発生や頭部神経堤細胞の生存に関与する遺伝子の制御には、胎生時期特異的で前頭鼻突起の部位特異的なRdh10およびRAシグナルが重要な役割をすることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で使用する胎生時期および組織特異的にRdh10の機能阻害を行えるノックアウトマウスは、我々の研究室でその作製にすでに成功している。このノックアウトマウスを用いて様々なステージで作製したマウス胎児の顎顔面の解剖学的な表現型の解析やRAシグナル阻害により生じた細胞動態の変化の解析が可能である。事前の研究計画も適切であった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、ノックアウトマウス表現型の分子基盤解明を行う。表現型が確認できたノックアウトマウスの上顎複合体を摘出して、網羅的な遺伝子発現解析を行い、RAシグナルの低下によって影響を受けるシグナル経路を同定する。また、RNAseq等のトランスクリプトーム解析を行うことにより、RAシグナル経路の変化によってもたらされるRNAサプライシング等も同時に解析することが可能となる。シグナルパスウェイ解析を行って得られた網羅的なデータから、RAシグナル経路の変化の影響を受ける遺伝子カスケードをより特異的に同定する。上記解析と並行して、上顎複合体をサンプルにRAレセプターの抗体を用いてクロマチン免疫沈降を行い、得られたDNA断片から遺伝子発現変化が転写レベルでRAシグナルから直接影響を受けているかどうかを詳細に解析する。以上より差が認められた遺伝子またはそれにコードされる蛋白質の発現パターンを免疫化学染色やIn situ hybridizationを用いて解析する。これによりRNAseq等で確認できた量的に差が生じる遺伝子の部位特異的に異なる発現パターンを可視化することが可能となる。本研究により上記疾患等に対する基礎的理解が深まり、RAシグナルの異常により誘発される顎顔面形成異常の予防法や治療法の確立をめざす。
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