研究課題/領域番号 |
19K19293
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
星島 光博 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 助教 (30736567)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 先天性部分無歯症 / CCN2 / ゲノム解析 / 歯原性上皮細胞 |
研究実績の概要 |
申請者はこれまでに軟骨分化促進因子CCN2の結合因子として、フィブロネクチン、アグリカン、CCN3およびRab14等を同定し、これらの相互作用が硬組織における細胞に及ぼす影響を明らかにしてきた。CCN2は歯牙形成にも影響を及ぼすことが示唆されており、本研究では永久歯の先天性欠如の要因となる新たな分子、遺伝子変異をCCN2やその結合因子等を候補としてゲノム解析により探索し、それらが歯の形成に及ぼす影響を解明することを目的としている。 まず患者から検体を採取するため、研究倫理審査を申請し昨年中に承認を得た。その上で、岡山大学病院矯正歯科を受診した患者にインフォームドコンセントを行い、同意の得られた患者を被験者とした。非症候群性の先天性部分無歯症患者(症例群)と、永久歯の先天性欠如のない患者(対照群)を対象として血液試料を採取した。本年度は症例群として多数歯にわたる先天性部分無歯症の患者から5検体、対照群にいても同数の検体を得た。現在、岡山大学病院バイオバンクを介して、症例群と対照群それぞれのゲノム解析を行っており、症例群特異的な変異を検索している。 また、骨系細胞株にてCCN2およびその結合因子の発現をsiRNAにより抑制することで、小胞体ストレスに関与する遺伝子発現が上昇することを確認した。この結果のうち、CCN2とRab14 GTPaseの相互作用が及ぼす生理的作用については、2020年4月に国際誌に投稿し掲載された。現在、SF2細胞の培養を開始し、歯原性上皮細胞における遺伝子発現について模索している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CCN2とその結合因子や顎顔面に症状が現れる症候群等の原因遺伝子を候補として、非症候群性の永久歯先天欠如症例における遺伝子変異を探索し、歯牙形成に及ぼす影響を解明することを目的としている。本研究の遂行に必要な倫理審査については、昨年のうちに承認が得ることができた。その後、検体については多数歯先天性欠如を有する症例群ならびに先天性欠如歯のない対照群で採取し、現在はゲノム解析を行っている。また、培養細胞を用いた解析は、CCN2やその結合因子についてsiRNAを用いて発現抑制を行い、小胞体ストレスの増加を示す結果を得ている。2020年4月にはCCN2とRab14 GTPaseの相互作用が及ぼす生理的作用について、軟骨細胞で解析した結果を国際誌に投稿し掲載された。これらの成果から、概ね順調に進展していると考えている。 一方で、歯原性上皮細胞株を用いた検討および2020年2月以降の検体採取については、やや遅れが生じている。現在、歯原性上皮細胞株であるSF2細胞を入手しており、他の細胞で蓄積したこれまで結果との関連性を見出し、今後報告していきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
Ⅰ. 先天欠如歯の原因となる遺伝子変異を同定し、歯を形成する細胞に及ぼす影響を検証:これまでに被験者より採取した血液試料を用いてゲノム解析を行い、症例群と対照群を比較検討することで、症例群に特異的な遺伝子変異を検出する。歯原性上皮細胞株(SF2)あるいは歯髄由来初代培養細胞等において、同定した変異を有する遺伝子をsiRNAによりノックダウンすることで、その因子が歯を形成する細胞の分化や基質産生、シグナル伝達系等にどのような影響を及ぼすかを検証する。さらに、検出された変異を遺伝子に導入した発現ベクターを作製して過剰発現させることで、これらの細胞に生じる変化を比較検討する。また、永久歯の先天欠如が様々な部位、歯数に及ぶ症例を多数解析することで、欠損部位や歯数と遺伝子変異の関連を明らかにする。 Ⅱ. 組織、個体レベルにおける遺伝子変異と歯牙形成の解析:細胞レベルの研究で、著明な影響が認められた遺伝子やその変異については、ノックアウト(KO)マウスや変異させた遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを作製し、in vivoの検証を行う。KOすることで胎生致死となる分子であれば、コンディショナルKOマウスを用い、同定した遺伝子が歯の形成へ与える影響を解明する。 これらの解析を通じて、歯の形成に関与する新規遺伝子あるいは既知遺伝子の新たな変異を同定し、その生理的あるいは病理的な働きを明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度使用した材料や機器については、これまでの研究と共通するものが多く、解析用の電算機器やキット試薬等は購入したものの、研究費の支出は限定的なものが多かった。次年度使用額は706,525円となったが、4月にはキット試薬や抗体の購入や論文の投稿費用が既に発生している。今後も血液検体のゲノム解析に多くの支出が見込まれることについては既に決定しており、その結果を踏まえてsiRNAやキット試薬等の適宜購入が必要である。さらなる研究成果を集約して報告するに当たり、次年度の研究費と合わせて有効に使用できると判断した。
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