研究課題/領域番号 |
19K19293
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
星島 光博 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 助教 (30736567)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 先天性部分無歯症 / ゲノム解析 / 歯原性細胞 / WNK1 / RAB38 |
研究実績の概要 |
申請者はこれまでに、同意の得られた先天性部分無歯症患者(症例群)と、永久歯の先天性欠如のない患者(対照群)を対象として血液試料を採取し、全遺伝子のエクソン解析を行うことで症例群特異的な変異を探索してきた。これらの解析から2020年度には、症例群特異的な遺伝子変異をRAB38、WNK1をはじめ、複数の遺伝子で同定することができた。そのうちRAB38がコードする低分子Gタンパク質は、申請者がこれまでに研究してきたRab14 GTPaseと同じファミリーに属しており、スプライシングに重要なドナーサイトに変異が生じていることが明らかとなった。CCN2とRab14の相互作用が細胞内輸送と基質産生に及ぼす影響ついては、2020年度中にInternational Journal of Molecular Sciences へ掲載され、同様の実験系を利用することで細胞レベルの検証を進めている。WNK1ではミスセンス変異が生じており、酵素活性に影響を与える可能性が示唆された。その他のいくつかの因子についても重要な塩基の変異を認めており、歯髄や歯根膜細胞における遺伝子発現を確認している。また、歯原性細胞株でのノックダウンに用いるsiRNAの作製、変異を導入したベクターの調整を進めている。 また、同意の得られた患者から引続き試料を提供して頂き、2020年度中に12症例の検体を採得できた。特に先天欠如歯数が多い症例や家族性の表現型を示す症例に対して解析を継続し、新たな遺伝子変異の探索やこれまでに同定した変異の特異性を確認している。さらに、本研究に伴って調査した岡山大学病院における先天欠如歯の発症率等については、学会で報告し国内の論文にも掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多数歯先天性欠如を有する症例群ならびに先天性欠如歯のない対照群で、これまでに採取した試料に対して各々の全遺伝子のエクソンを解析し、RAB38、WNK1をはじめ複数の症例群特異的な変異を特定することができた。変異を同定したいくつかの遺伝子については、歯髄や歯根膜の細胞における発現を確認できた。また、これまでに進めていたCCN2に関する研究論文が、2020年度に国際誌へ掲載された。この論文で検証したRab14については、今回同定したRAB38がコードする低分子Gタンパク質と同じファミリーに属しており、その実験手法や培養細胞、抗体など一部の材料は共通して利用できる。特に変異体の過剰発現に用いるベクターは、目的遺伝子部分を組み換えて使用できるように設計しており、歯原性細胞を用いた検証は加速できる。これらの成果から、概ね順調に進展していると考えている。 一方、2020年度の検体採取および学会での報告については、COVID-19の感染拡大に影響を受けてやや遅れが生じている。検体数を増やすことで新たな遺伝子変異の探索を進め、これまでに同定した変異の特異性を確認していく必要がある。また、本研究の学会や雑誌における発信は、先天欠如歯の調査報告にとどまっている。同定した遺伝子変異が歯原性細胞株の遺伝子発現や基質産生に及ぼす影響を確認し、今後報告していきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
I. 症例群特異的な遺伝子変異の探索・解析:永久歯の先天性欠如を伴う症例群と全ての永久歯を有する対照群について、全遺伝子のエクソン解析を継続して進める。症例数を増加することで、先欠歯に関与する新規遺伝子変異をさらに検出するとともに、その特異性を高めていく。また、永久歯の先天性欠如が様々な部位、歯数に及ぶ症例を多数解析することで、先欠部位や歯数と遺伝子変異の関連を明らかにしていく。 II. RAB38、WNK1等、同定した遺伝子変異の解析:これまでに行った解析で同定したRAB38、WNK1等の症例群特異的な変異を有する遺伝子を、歯原性細胞株や歯髄由来初代培養細胞において、siRNAによりノックダウンすることで歯を形成する細胞の分化や基質産生、シグナル伝達系等にどのような影響を及ぼすかを検証する。さらに、検出された遺伝子変異を導入した発現ベクターを作製して過剰発現させることで、これらの細胞に生じる変化を比較検討する。 III. 組織、個体レベルで遺伝子変異が歯の形成に及ぼす影響を解明:上述の細胞レベルの検証で、著明な影響が認められた遺伝子やその変異について、遺伝子変異を導入したトランスジェニックマウスやノックアウトマウスを作製し、組織、個体レベルの検証を行う。ノックアウトにより胎生致死となる分子であれば、コンディショナルノックアウトマウスを用い、同定した遺伝子が歯の形成へ与える影響を解明する。 これらの解析を通じて、歯の形成に関与する新規遺伝子あるいは既知遺伝子の新たな変異を同定し、その生理的あるいは病理的な働きを明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は予定していた海外を含む学会への参加が、COVID-19の感染拡大に伴って中止あるいは見合わせることとなった。そのため、旅費の大部分を使用しなかったことが主な原因で、次年度使用額が生じた。 次年度使用額は932,209円であるが、今後も血液検体のゲノム解析に多くの支出が見込まれる。siRNAやキット試薬等についても現在購入を予定しており、さらなる研究成果を集約して報告するに当たり、有効に使用できると判断している。
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