研究課題
小児がん治療のために抗がん剤等の大量化学療法を受けた小児において、術後に口腔内環境が変化し重度の齲蝕や歯肉炎が起こることがすでに知られている。このような小児では、齲蝕および歯肉炎発症に関わる菌の性状やその菌を取り巻く生育環境も大きく変わっている可能性が高く、これらのことからその細菌叢は健常の小児のものとは大きく異なると考えられる。本研究では岡山大学病院小児科を受診中で保護者の同意が得られた男児(12歳1か月、dmf 歯数:6)より唾液を採取し、細菌 DNA を抽出した。得られた DNAを鋳型として、各口腔内細菌の特異的プライマーを用いて PCR 法を行い菌の同定を行った。サンプルは、大量化学療法開始1か月前および開始後約1、3か月後に採取した。得られた唾液から 齲蝕病原性細菌 Streptococcus mutans を分離し、その病原性について検討した。開始1か月前の唾液からは S. mutans は分離できなかった。標準株として日本人小児由来の S. mutans MT8148 株をコントロール株として用いて、患児より分離されたS. mutans 株のバイオフィルム形成能およびスクロース依存性平滑面付着能の比較を行った。移植後1か月後、移植3か月後の唾液から分離されたS. mutans 株は、MT8148 株と比較するとバイオフィルム形成量、スクロース依存性平滑面付着能の有意な低下が認められた。一方移植1か月後と3か月後の間には有意な差は認められなかった。以上の結果からこの患児においてS. mutans 株の齲蝕病原性は移植後3か月までは低い状態であることがわかった。今後は他の症例から分離された菌の性状を検討していくと同時に、バイオフィルム形成に関連する膜タンパクの変化について検討することにより齲蝕病原性低下のメカニズムを追求する予定である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Journal of Oral Microbiology
巻: 12 ページ: 1797320~1797320
10.1080/20002297.2020.1797320