研究課題/領域番号 |
19K19322
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
内堀 聡史 日本大学, 松戸歯学部, 助教 (90706508)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | インプラント周囲炎 / 検査キット / 選択培地 / Slackia exigua |
研究実績の概要 |
令和元年度は以前開発したSlackia exigua選択培地の組成の改良を行った。本選択培地は、S. exigua 以外の多くの目的外菌の発育を認めた。また、当初は選択液体培地培養後のpH指示薬による色調変化により、試料中におけるS. exigua数の定量を行う予定であったが、発育に伴う酸産生能に着目しpH指示薬を色調変化による検査キットの開発を試みたが、S. exiguaは非糖分解性嫌気性グラム陽性桿菌であるため、困難と判断した。そこで、選択培地を改良し固形培地での検査キットの開発を試み、その有用性の検討を行った。歯肉溝滲出液、およびインプラント周囲溝滲出液を対象としているために本学部の倫理審査委員会にて審査後、学部長の承認を得ている。本選択培地の改良には、まず基礎培地の検討を行った。その結果、FASTIDIOUS ANAEROBE AGARに羊血液を添加したものが最も良好な発育を示したために、これを改良型S. exigua選択培地の基礎培地とした。また、目的外菌の複数株とS. exigua認定株の1株および分離株3株に対して、抗菌薬ディスクを用いた薬剤感受性試験を実施した。それにより、目的とするS. exiguaの発育を阻害せず、かつ目的外菌のみの発育を阻害する抗菌薬の選定を行った結果、既存の選択培地に使用した抗菌薬以外のホスホマイシン、アンホテンシンB、およびオキサシリンを有用な抗菌薬として選定した。3名から採取されたヒト歯肉溝滲出液試料を既存の培地に以上の抗菌薬を添加した本選択培地が実際の臨床で有用であるか否かを検討した。本選択培地は目的とするS. exigua以外の口腔細菌の発育を著しく抑制した。さらに臨床の現場でインプラント周囲炎罹患者およびインプラント周囲炎非罹患者のインプラント周囲溝浸出液を採取し、インプラント周囲炎患者で有意に多く検出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
S. exiguaの発育・培養に関しては、事前に文献等の調査および予備実験を行っていたために、研究に供するS. exiguaの培養に関して特に問題なく行うことが可能であった。また抗菌薬感受性試験を行った結果、S. exiguaが感受性を示さず、代表的な口腔細菌が感受性を示す抗菌薬を複数見つけることが出来たことで、スムーズに歯肉溝滲出液、およびインプラント周囲溝滲出液試料を対象としたS. exiguaを分離・検出するための選択培地の開発はスムーズに行うことが可能であった。さらには、申請者らはこれまでにAggregatatibacter actinomycetemcomitans、Corynebacterium matruchotii、Microbacterium属菌、Rothia dentocariosa、Rothia mucilaginosa、Rothia aeriaなどといった病原性をもった口腔細菌を分離・検出するための複数の選択培地を開発した経験があり、これらのことも本研究課題が概ね順調に進展している理由として挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度では、臨床試料を用いて、選択培地による培養法およびリアルタイムPCR法を用いた遺伝子学的方法による菌数の確認と総菌数に対する検出比率を確認し、それらの結果と開発する本検出キットの結果と比較検討することにより、本検出キットの有用性および基準値の設定を行う。また、菌種同定はPCR法を用いるためにS. exigua特異的PCRプライマーを設計する予定である。より短時間で、精度の高い結果が得られるように試作品を改良し、 S. exiguaを効率的に検出できるように最適な培養条件および正確なインプラント周囲炎リスクモデルチャートによる定量の判定を調査する予定である。 そこで、まず本選択培地を応用して検査キットの試作品の作製を行う。試作品の作製には今年度開発した選択固形培地を1cmの正方形に切り出したものをスライドガラスに配置する予定である。実際に試料を採取したペーパーポイントを検査キットに塗抹し、培養後、形成されたコロニーを確認することにより、本検査キットの有用性を確認する予定である。次に、試料採取および S. exigua の検出は前年度に準じた方法で行う予定である。同時に選択培地による培養法およびリアルタイム PCR 法を用いた遺伝子学的方法による菌数の確認と総菌数に対する検出比率を確認する。それらの結果と開発する本検出キットの結果と比較検討することにより、本検出キット の有用性および基準値の設定を行う。なお統計的分析は、Kruskal-Wallis ANOVA を用いる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
S. exigua選択培地の選択性をさらに向上させるために実施する抗菌薬感受性試験で使用するオキサシリン、フォスフォマイシン、リンコマイシン、オフロキサシン、アンホテンシンBの購入を予定していたが、使用している共同研究室ですでに所有しており、購入する必要がなくなったために次年度使用額が生じてしまった。そのため、次年度にS. exiguaの良好な発育と選択性の向上が見込まれると推定される染色剤の購入を予定している。
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