研究課題
歯周病による歯の喪失は食生活・社会生活に支障をきたし,ひいては全身の健康に影響を与える。歯周病を惹起する歯周病原菌は,歯周組織の上皮や硬組織を破壊するだけでなく,口腔領域外の組織の炎症にも関与することが分かってきた。その中でも,歯周病原菌による気管支炎や誤嚥性肺炎の重症化は生命の危険に直結するため,特に高齢者では大きな問題となっている。しかし,歯周病原菌が気道や肺の炎症を増悪する分子メカニズムはよく分かっていない。私は,歯周病原菌が放出する『細胞外分泌小胞』に着目し,歯周病が上皮防御機構の破壊や呼吸器系組織の炎症を誘導するメカニズムの解明を行った。具体的には,1.歯周病原菌由来の『細胞外分泌小胞』の生体内の動態を調べた。2.歯周病原菌由来の『細胞外分泌小胞』の肺上皮細胞に対する影響を調べた。3.『細胞外分泌小胞』に含まれる病原因子を同定した。蛍光標識した歯周病原菌由来の『細胞外分泌小胞』は,生体内において肺に集積することがわかった。培養肺胞上皮細胞を用いた実験により,『細胞外分泌小胞』は濃度と時間に依存して肺胞上皮細胞に細胞死を誘導した。カスパーゼ3の活性化やその基質であるPARPの断片化が検出されたことから、この細胞死はアポトーシスであると考えられた。回収した『細胞外分泌小胞』からタンパク質を抽出し,質量分析により解析したところ,菌固有のタンパク質分解酵素ジンジパインなどが含まれていた。以上の結果より,歯周病原菌は『細胞外分泌小胞』を唾液または血液中に放出することで,細胞障害性因子を肺に到達させ,肺上皮細胞に細胞死を誘導すると考えられる。これらのメカニズムは,歯周病における上皮防御機構の破壊や呼吸器系組織の炎症の誘導の一因になると考えられる。
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Archives of Oral Biology
巻: 118 ページ: 104841