本研究は若年期および成体期ICRマウスの片側咬筋にボツリヌストキシンを注入してオーラルフレイルモデルマウスを構築し、その顎顔面形態や顎口腔機能にみられる変化の指標を明らかにすることでオーラルフレイルの予防および治療法を検討することを目的としている。 成体期モデルマウスにおける3次元顎運動計測および筋活動計測では、ボツリヌストキシン注入による急性的な変化として顎運動軌跡の安定性の低下を認めた。また、機能低下させた側の咬筋では十分な筋活動量の低下を確認したが、反対側咬筋において代償的な筋活動増加は認めなかった。 若年期モデルマウスにおいては、マイクロCTにより経時的な形態データを収集し、骨形態計測を行った。片側咬筋へのボツリヌストキシン投与により、顎偏位を示す個体も認めたが、サンプル数を追加した状態でもごく少数であった。下顎骨形態への影響として、咬筋の付着部位である咬筋稜や下顎角周辺の骨形態の変化が認められた。ボツリヌストキシン注入側および非注入側のマイクロCT画像の重ね合わせにおいて、ボツリヌストキシン注入側で下顎下縁の後方は注入側で前後的に短く、上下的には長い丸みを帯びた形態である傾向があり、下顎枝の高さは注入側で大きくなった。この要因としては、ボツリヌストキシン注入によって低下した咬筋の機能を周囲の筋が補償した可能性が考えられた。咬筋と内側翼突筋は閉口時に下顎骨を上方、前方に動かす働きがある。ボツリヌストキシンによって機能低下した咬筋の働きを補うように内側翼突筋が働いたことによって、下顎枝高さの成長量が大きくなったと示唆された。 骨形態の成長変化をボツリヌストキシン注入側と非注入側で比較することで、咬筋の機能低下が下顎角や下顎頭の形態成長に与える影響を視覚的にとらえることができた。
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