研究課題/領域番号 |
19K19336
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研究機関 | 日本歯科大学 |
研究代表者 |
古屋 裕康 日本歯科大学, 生命歯学部, 助教 (60779924)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 遠隔診療システム / 在宅療養 / 嚥下障害 / 摂食状況 / 摂食支援 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、対面診療と遠隔診療を併用して食事指導を行うことによる安全な経口摂取方法の確立するためのエビデンスを構築することである。令和元年度はベースライン調査と遠隔診療システムの検討を行った。 まず、ベースライン調査は嚥下障害を有する在宅療養高齢患者125名(男性75名,女性50名, 81.8±7.8歳)を対象とし、摂食支援を行い、1年後の摂食状況と予後(在宅療養の継続の可否)を検討した。初診時に経管栄養(非経口摂取)者は30名、経管栄養と経口摂取の併用者は14名、経口摂取者は81名だった。低栄養(BMI 18.5未満)は58名(46.4%)にみられた。居住形式は配偶者のみ同居しているケースが56名、配偶者以外の家族も同居のケースが68名、独居ケースは1名のみであった。1年後、在宅療養を継続できた者は73名、継続不能(入院、死亡、施設入所)は52名だった。在宅療養を継続できた者においては、全体として摂食状況は有意に向上していた。一方で、初診時に嚥下障害を有した経口摂取者では大半がペースト食もしくはゼリー食に移行し、多くに栄養補助が開始されていた。 嚥下障害を有する在宅療養患者の実態として、摂食支援によって経管栄養者であっても経口再開となる可能性がみられた。経口摂取者においては、在宅療養を継続するためには安全な食形態への変更が行われ、栄養補助の導入が重視されていた。 次に、遠隔診療システムの検討については、既存のシステムを用いて3名の患者に対してインターネットを利用したリアルタイムの診療(医療従事者間での、専門医が医師の診療を支援するケース)を実施した。通信機器の通信速度の問題によりタイムラグが生じてしまったり接続が途切れてしまうことが多い状態であり、課題が多く見つかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の対象者は在宅療養中の胃瘻での栄養摂取を行っている摂食嚥下障害の患者、で尚且つ、主たる介護者が不明な者や生命予後が著しく悪い者は除外していた。本年度の研究実績で示した通り、継続不能となる者が多い実態が明らかとなり、また対象者が限定されるために対象者の確保が当初予定より少なくなった。予定通りの対象者を募ることは今後も難しいことが予測される。 遠隔医療システムについては、インターネットを利用したリアルタイムの診療を数例でトライアルを実施したところ、通信機器の通信速度の問題によりタイムラグが生じてしまったり接続が途切れてしまうことが多い状態であった。この原因として、モバイルwifi環境で、かつ精密機器(嚥下内視鏡)の動画送信など、画像送信に負荷がかかる状況であったことが考えられる。インターネット環境を安定したものに切り替えると同時に、転送する動画を負荷のかからないものとすることも検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の対象者は、介入群において目標とする人数には達しておらず、引き続き対象者の収集に努める。また、対象者の基準を拡充することを検討する。具体的には、経管栄養患者に限らず嚥下障害のある患者として、広く募ることとする。 また、遠隔医療システムについては、① 医師と医師の診療を支援する Doctor to Doctor(D to D)と ② 医師が遠隔の患者を診療するDoctor to Patient (DtoP) に分けられるが、当初はD to Dの診療スタイルを想定していたが、今後はシステム構築のための D to Pでのトライアルも並行して件数を増やしていく。D toPの場合、対象患者・介助者ともに高齢のケースが多く、通信機器の使用に難渋することも予測されるため、その点も考慮して機器利用方法を簡素なものにする。本研究の対象者については、引き続き追跡調査を行い肺炎発症や経口摂取継続・中止と患者家族の介護負担度や満足度をアウトカムとし、遠隔医療システムの有用性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度に予定していた対象人数が少なくなってしまったため、消耗品および人件費の未使用金が生じた。次年度は対象者の基準を拡充するとともに、分析やシステム構築のための経費が必要となることが予測できるため、未使用金をこれらの経費に充てることとしたい。
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