炎症性腸疾患は、医療の発展に伴い寛解期導入は可能となったが、その維持については課題が残る。寛解と再燃を繰り返す難病であるため、寛解期間に依存して患者の生活の質が向上する。現在、寛解期を維持するために数種類の薬剤投与が行われているが、重い副作用は皆無ではない。また再燃の有無を確認するために定期的に行われる大腸内視鏡検査のストレスは大きい。そこで、炎症性腸疾患の原因の1つとして考えられている口腔と腸内細菌叢の均衡破綻と多様性の消失に着目し、歯科的介入による口腔・腸内細菌叢と宿主の相利共生化の可能性を検証した。さらに臨床所見と突合し、寛解期維持に寄与する可能性を持つ口腔細菌と腸内細菌叢の関連についても考察した。 具体的には、被験者(寛解から軽症と診断された炎症性腸疾患患者ボランティアと健康ボランティア)を対象とし、臨床試験を行った。主要評価項目は、口腔・腸内細菌叢の細菌の質的・量的分布とした。副次的評価項目は、歯周組織検査、唾液分泌量、血中白血球数、炎症性マーカー;C反応性タンパク、ヘモグロビンおよびアルブミン量計測、および唾液タンパクの定量とした。歯科的介入項目は、歯周基本処置受療後にDental Drug Delivery System(3DS)による除菌と、さらに自宅での歯磨き、舌清掃および洗口剤による含嗽後に行う3DSによる除菌とした。臨床試験によって得られた各サンプルから口腔・腸内細菌叢の遺伝子を抽出し、次世代シーケンス解析を実施した。さらに副次的評価項目の1つである唾液タンパクについて、炎症性腸疾患と関連があるとされるカルプロテクチンを解析した。
|