研究課題/領域番号 |
19K19354
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
佐藤 利栄 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 助教 (20804892)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 湿布依存 / 不適切処方 / 依存 / 医療費削減 / 慢性疼痛 |
研究実績の概要 |
2019年度は患者調査のプレ調査として、約1000名の島根県内の農業従事者を対象としたアンケート調査を行った。3か月以上続く痛みを慢性疼痛と定義し、慢性疼痛の有病率、その中での湿布使用者の割合、湿布処方に対する依存度について調査した。 慢性疼痛の有病率は34.3%であった。そのうち痛みを自覚している部位は腰54.4%、足(膝を含む)42.2%、肩35.0%、腕・手23.9%、首10.8%、背中6.7%、頭3.0%、目1.9%であり、筋骨格系の疼痛が多かった。また、慢性疼痛があると回答した人のうち3か月以内に医療機関を受診した人の割合は51.5%で、そのうち湿布使用については、35.8%が医療機関で処方されたものを、16.1%が自分で購入したものを、11.0%が医療機関で処方及び自分で購入したものの両方を使用し、37.2%が使用していなかった。 湿布依存はDSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、米国精神医学会による精神障害の分類)の物質使用障害の診断ガイドラインを参考に自作の質問で評価した。湿布使用歴のある人の割合は78.9%であった。このうちDMS-5の物質使用障害に関する11の質問(①意図されたより大量または長期に使用②使用量を減らそうとする欲望または不成功な努力③物質の入手、使用、回復などに大量の時間を要す④社会的機能の破綻を起こすような反復使用⑤反復する社会または対人関係問題にも関わらず継続使用⑥物質使用のために重要な社会、職業活動などを放棄⑦身体的な危険を伴う状況での物質の反復使用⑧精神的・身体的問題が物質使用に起因していることを知りつつも継続⑨耐性⑩離脱症状⑪物質使用の渇望)のうち2項目以上を満たす人を依存症と定義したところ、依存症の診断または疑いのある湿布使用者は20.9%であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、湿布の不適切処方について、患者の立場および医師の立場から実態解明することを目的としている。本研究のように、患者の湿布処方に対する「依存」と、それを容認し処方し続ける医師の意識調査を行った先行研究は見当たらない。湿布のような身体依存をきたしにくい一方で精神依存をきたしやすい物質使用に対する依存は、むしろ行為依存に近く、評価方法が確立していない。そのため、2019年度では依存度の評価を、DSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、米国精神医学会により示された精神障害の分類)の物質使用障害の診断ガイドラインに習い独自に作成したアンケートにより行った。この結果の検討を十分行うことで、より適切で効率的な2020年の患者調査につなげることができる。 当初の予定通り、2020年度にはインターネットによる患者に対する調査を、2021年度には医師に対する調査をそれぞれ行う計画であり、これらは現在の進捗状況で十分実現可能と考える。 また、2019年度には、アメリカ心臓学会の公衆衛生部門の国際学会に出席し情報収集を行った。同学会で得られた、学術的に国際的に発信するためのノウハウやネットワークは、今後、本研究の結果を世界に発信していくために活用できる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、インターネットを利用した患者調査を行う予定である。対象者は3000名程度を予定し、対象者の年齢は偏りなく、若年層から高齢者層までとする予定である。湿布使用の目的が、主にスポーツ外傷などの急性疼痛の治療と考えられる若年層から、主に慢性疼痛の治療と考えられる高齢者層までの湿布使用の実態と湿布依存の有無を調査する。依存が見られる人は、主に慢性疼痛に対して湿布を使用している高齢者が多いと予想している。インターネットを利用した患者調査は、インテージリサーチ社と協力して行う。 2021年度は、医師調査を行う予定である。対象者は、国内の10程度の総合病院の勤務医と、島根県内の開業医で、対象者数は1000名程度を予定している。慢性疼痛のある患者にどのような治療と処方を行っているかに加えて、湿布処方を求める患者に対して、何を根拠に、どの程度湿布処方を行っているのか、効果判定の有無、湿布処方に対して医師がどう考えているのか等について実態調査を行う。質問項目の調整のために、パイロット調査として、2020年度中に、島根県内の主要病院の勤務医に対し自記式質問紙調査を施行する予定である。 適宜、国内学会および国際学会に出席し、情報収集を行うとともに、ネットワークを構築し、今後のさらなる研究の発展につなげていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、当初予定していたハードウェアおよびソフトの新規購入を見送ったため、次年度使用額が生じた。これは、2020年度のインターネットを利用したアンケート調査に費用がかかる見込みであること、2021年度の医師を対象としたアンケート調査に謝金などの費用がかかる見込みであることを考慮したためである。具体的には、2020年度施行予定のインターネット調査に関しては、3000サンプル(10代~80代の男女)を対象とした全25問のインターネット調査の見積金額は1242千円であり、また、2021年度施行予定の医師を対象としたアンケート調査に関しては、アンケートに協力した医師1人当たりに500円の謝金を支払うとした場合、1000サンプルで合計500千円となる。また、各病院で調整に当たっていただく医師には別途謝金を支払うこと、申請者が各病院に直接出向くことを予定しており、その旅費などを考慮すると、本年度の予算はできるだけ抑え、次年度および次々年度に繰り越すべきと考えた。使用計画は上記の通りである。
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