研究課題/領域番号 |
19K19354
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
佐藤 利栄 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 助教 (20804892)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 湿布依存 / 不適切処方 / 医療費削減 / うつ / 不眠 |
研究実績の概要 |
本研究は、湿布の不適切使用について、患者の立場および医師の立場から実態解明することを目的としている。2020年度は、2019年度に行った患者調査のプレ調査(1000名規模の島根県内の農業従事者を対象としたアンケート調査)の解析と、2021年度に施行予定のインターネットを使用した全国調査の質問紙作成およびその妥当性の検討、および倫理委員会との交渉を主に行った。 質問紙回答者1063名のうち、非農業従事者96名と、不適切回答145名を除いた822名のうち、湿布を使用したことがあると回答した668名(男性72.3%、平均年齢59.3±14.6)を対象に解析を行った。 DMS-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、アメリカ精神医学会により示された精神障害の分類)の物質使用障害に関する11の質問(①意図されたより大量または長期に使用、②使用量を減らそうとする欲望または不成功な努力、③物質の入手、使用、回復などに大量の時間を要す、④社会的機能の破綻を起こすような反復使用、⑤反復する社会または対人関係問題にも関わらず継続使用、⑥物質使用のために重要な社会、職業活動などを放棄、⑦身体的な危険を伴う状況での物質の反復使用、⑧精神的・身体的問題が物質使用に起因していることを知りつつも継続、⑨耐性、⑩離脱症状、⑪物質使用の渇望)のうち2項目以上を満たす人を湿布依存と定義したところ、湿布依存は89名で、湿布使用者の13.3%であった。女性、高齢、慢性疼痛があると湿布依存の割合が高かった。湿布依存は、自分で購入したものを利用している人で有意に高かった。アテネ不眠尺度を用いて不眠との関連を、K6を用いてうつとの関連を検討したところ、不眠であること、およびうつであることと湿布依存であることは有意に関連した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度のプレ調査の解析結果から、不眠、うつと湿布依存には統計学的に関連があることが示された。ほかの依存について見聞を広め、湿布依存という依存状態が他の物質依存もしくは行為依存と類似しているものなのか、不眠、うつと関連することは特異的なことなのかについて考察を深めたいと考えている。 当初の計画では、2020年度に患者調査を、2021年度に医師調査を行う予定であったが、倫理委員会とのやりとりにかなりの時間を要したことから、まだ患者調査、医師調査ともに取り掛かれていない状況にある。しかしながら、島根大学病院の倫理委員会からは無事研究の承認を受け、現在、調査開始に際して必要な、研究に携わるメンバーによるスタートアップミーティングを完了したところである。調査に対しては、既に話を進めている(株)インテージリサーチに協力を仰ぎ、速やかに施行予定である。 今回インターネット調査をするにあたり、調査対象が、自らが参加している調査について詳細を知らされないこと、同意の撤回が生じた場合の対応などについて、倫理委員会で問題になった。インターネット調査は、比較的対象者を集めやすい調査方法として広く取り入れられているが、研究協力者の権利に配慮することが難しい調査であることを実感した。また、昨年の段階では、患者調査の対象者を、10代から70代までの男女、と設定していた。10代の男女も対象者に含めていた理由は、スポーツ外傷などで湿布を使用する機会が多いと考えたためである。しかし、インターネット調査における保護者の同意の取得や同意の撤回(親の判断で同意の撤回を可能にする)は、倫理的配慮を行うのは非常に難しい。加えて、2019年度のプレ調査の解析結果から、湿布依存と年齢が上がることが統計学的に有意に関連することが示されたことから、今回の調査では、対象者を40代から70代までの男女と変更するに至った。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、インターネットを使用した患者調査および医師調査を行う予定である。調査方法はインターネットを使用した全国調査である。患者調査については、3000名程度の、40代以上の壮年期から高齢期にかけての男女を全国よりまんべんなく対象者を抽出する。ここで壮年期から高齢期にかけての一般住民に対象者を絞った理由は、2020年度の調査で、高齢になるほど湿布依存が増えることが統計学的に示されたことによる。医師調査については、1000名程度のインターネット調査のモニターに登録している20代~70代の医師を対象とする。慢性疼痛のある患者にどのような治療と処方を行っているかに加えて、湿布処方を求める患者に対して、何を根拠に、どの程度湿布処方を行っているのか、効果判定の有無、湿布処方に対して医師がどう考えているのか等について実態調査を行うとともに、アンケート調査を行うことにより、自らの行っているプラクティスについて再考していただく機会になるような質問構成にする。 (株)インテージリサーチによれば、必要なサンプル数は数日で収集可能を見込んでいることから、これらの2つの調査を今年度中に行うことは可能である。質問紙の内容は、患者調査に関しては、2019年度に行ったプレ調査と類似しており、プレ調査の結果の妥当性を、全国調査で検討できるという点で、2019年度およびその解析を行った2020年度の結果を生かし、つながりを持った一連の研究として質の向上を期待できる。また、患者の湿布処方に対する「依存」と、それを容認し処方し続ける医師の意識調査を行った研究は前例がないことから、今回の医師の意識調査の結果を根拠として、慣例化され妥当性の検討が十分されていないプラクティスに疑問を投じ、患者により適切な医療を提供するきっかけ、また医療費削減へのきっかけになることが期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、2020年度および2021年度をかけて、インターネットを使用した全国調査を行う予定としていた。2020年度には患者調査を、2021年度は医師調査を行う計画で、2020年度および2021年度に予算を計上していた。しかし、2020年度、患者調査が実行できなかったたため、インターネット調査に必要な金額が使用されなかった。 2021年度は、今科研の最終年度になる。2021年度中に、2つのインターネットを使用した全国調査を完遂し、その結果の解析まで行うことで、予算を使用する計画である。
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