研究課題/領域番号 |
19K19354
|
研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
佐藤 利栄 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 助教 (20804892)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 湿布依存 / インターネット調査 / 全国調査 / 患者調査 / 医師調査 / 連続処方 / 不適切処方 |
研究実績の概要 |
本研究は、湿布の不適切使用の実態を患者および医師の立場から明らかにし、その是正を目的とする。2021年度はインターネットによる全国調査を実施した。 患者調査では、全1121名のうち84.3%に湿布処方・使用歴があった。このうち18.7%が3か月以上湿布を連続使用しており、69.7%が実際に痛みが改善したから、30.9%が湿布を貼っていると安心だからと回答した。連続使用した湿布の80.9%が処方薬であった。医師の処方量に69.7%は満足していたが、24.7%がより多くの処方を希望していた。 医師調査では、全525名のうち94.9%に湿布の処方経験があった。このうち41.7%が過剰処方だと思いつつ処方した経験があった。自分が考える必要量より多く患者が処方を求めた時、診察上明らかな炎症所見を認めないが患者が湿布処方を求めた時、それぞれ59.0%、59.8%が患者の希望通り処方していた。36.1%が湿布や湿布処方という行為が良好な医師患者関係の維持に役立つと考えていた。66.9%が連続処方時に治療効果を確認していた。65.8%が湿布の効果に疑問を持ちつつ湿布処方を続けていた。21.9%が患者が求めれば湿布の連続処方は適切だと回答した。44.6%が湿布は本来の効能とは別の観点で患者のQOLを向上させると回答した。63.0%が湿布の長期処方を求める患者の中に湿布処方で精神安定する者がいると回答した。湿布を3か月以上連続使用する患者のうち「湿布がないと不安」と感じる状態を「湿布依存」と定義した時、54.4%が湿布依存と思われる患者の診察経験があった。59.6%が湿布依存患者の湿布処方希望時、処方すると回答し、このうち48.5%が限られた診療時間内で湿布処方の必要性の説明に時間を割けないためと回答した。しかし49.6%が処方の必要性を議論することが湿布依存患者への理想的な対応だと回答した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、2019年度にプレ調査(患者調査)とその解析、2020年度に患者を対象とした全国調査とその解析、2021年度には医師を対象とした全国調査とその解析を完了する計画であった。患者対象の全国調査は当初よりインターネット調査で行う計画だったが、医師対象の調査は、全国の勤務医および島根県内の開業医への自記式質問紙調査の計画であった。アンケートに協力を依頼する勤務医は、申請者の知り合いの医師(研究協力者)の勤務する病院から、島根県内の開業医は、医師会名簿から抽出する計画であった。しかし、申請者が考える「不適切処方」を適切と考える医師も一定数いると考えられた。また、勤務形態や場面によっては、申請者が考える「不適切処方」が必ずしも臨床現場において正しいとは断言できない可能性があった。アンケート参加者と申請者がお互いを特定可能な関係性において本研究のような「医療の在り方」を問うアンケートを実施すると、アンケート参加者が「一般的に望ましいと思われる」回答をしがちになり実態を把握できない可能性があった。また、申請者の考えをアンケート参加者に押し付けることになる可能性もあり、アンケート参加者に不快な思いをさせるだけでなく、今後、申請者、研究協力者、アンケート参加者との診療協力体制に支障をもたらす可能性も考えられた。3者の匿名性を担保することで、アンケート参加者がより「正直に」回答しやすくなり、湿布処方の正確な実態を把握できると考え、医師調査もインターネットによる全国調査に変更した。 全国調査をインターネット調査で行うに当たり、説明文書の公開方法、アンケート参加者の同意の取得及び撤回方法等について、島根大学医学部附属病院の倫理委員会で承認を得るまでに時間を要した。このため、2020年度に計画していた患者調査を後ろ倒しし、2021年度に患者調査と医師調査を同時期に行うよう計画を変更した。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに、調査①島根県内の農業従事者を対象にした患者調査、調査②全国の患者調査、調査③全国の医師調査を完了し、その解析結果を得ている。2022年度は、これらの結果を論文化し、国内外の学会での発表の機会を得るために積極的に活動したいと考えている。 調査①では、湿布依存と不眠、湿布依存とうつが関連することが明らかになった。この事実を、他の物質依存・行為依存と比較することで、「湿布依存」という状態が存在することの妥当性を社会に発信したい。調査②では、調査①で示された関連性が妥当であるかを、全国調査の結果に照らし合わせ検討し、これを発表したい。調査③では、申請者が臨床経験の中で感じていた、「湿布依存」状態の患者が存在するであろうという印象を、アンケートに回答した医師の半数以上も感じていたことが明らかになった。また、医師の湿布処方に対する考え方とプラクティスに関するアンケート結果から、申請者が予想していた『湿布依存の患者が、湿布の効用性とは無関係に湿布処方を希望し、それを容認して連続処方し続ける医師が一定数いる』という実態が明らかになった。この結果を学術的に発表するだけではなく、日本の医療における湿布処方の在り方について再考する契機になるよう、社会に働きかけていきたい。湿布処方のように、医学的な妥当性が十分に検討されていないが慣習として存在し続けている医療のプラクティスに一石を投じ、患者さんにとって、より適切で、かつ医療経済的により効果的な医療を提供できる医療体制への変革、医療適正化を図り、現在の日本の医療に急務である国民医療費削減に貢献できるよう、研究者としての社会的役割を果たしていきたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初、本研究の研究期間は3年間の計画であった。しかし、インターネット調査に必要な費用が不明確であったこと、医師を対象とした全国調査の際、研究協力者、アンケート参加者へ謝礼を支払う計画であったこと、および研究協力を得る施設への旅費も計上していたことから、初年度(2019年度)のハードウェアおよびソフトウェアの新規購入を見送った。しかし、医師調査をインターネット調査に切り替えたため調査費用に変更が生じた。 また、コロナウイルス感染症のパンデミックにより、海外はおろか、国内への出張も大学により制限された。そのため、毎年計上していた国内外での学会への参加費および旅費が使用できなかった。また、インターネット調査施行について島根大学医学部附属病院倫理委員会の承認を得るのに時間がかかり、インターネット調査の実施に遅延が生じた。 以上の状況を踏まえ、本研究の研究期間を1年間延長申請した。コロナ禍でのwithコロナの体制が全世界で整いつつある2022年度は、積極的に国内外問わず学会に参加し、日本国内および海外にも本研究の結果を発表する機会を作りたいと考えており、その参加費や旅費に使用したいと考えている。また、論文作成に当たり、英文校正や論文投稿にかかる費用に使用したいと考えている。
|