研究課題/領域番号 |
19K19376
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
阿部 智一 筑波大学, 医学医療系, 客員教授 (70633973)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 敗血症 / テーラーメード医療 / 症候群 / ガイドライン |
研究実績の概要 |
敗血症とは感染+臓器障害の症候群である。救急・集中治療分野だけでなく、一般外来などのあらゆる場面で遭遇する致死的疾患である。米国・欧州集中治療学会は敗血症は単一疾患のように治療速度優先の単一の治療ストラテジーで対応するように推奨しているが、敗血症は他の救急疾患に比べて複雑である。 敗血症の構成因子は原因菌、感染臓器&と障害臓器、背景に分けて考えることができる。原因菌は細菌やウイルス、真菌がある。感染臓器と障害臓器には代表的な11部位と6システムの組み合わせ、背景には多疾病状態などがある。そのため、本研究の目的は臨床家が治療応用できるように単一で捉えてきた敗血症を組分けし、テーラーメード医療を行うためのリーズナブルなパターン化を行う特徴を捉えることである。日本救急医学会の既存の多施設共同研究のコホートを用て、探索的に研究を行った。 FORECAST研究のデータを用いて、真菌による敗血症患者のサブグループ、感染部位ごとによる敗血症の再分類について検討した。結果は真菌による敗血症は単一ではなく、カテーテル関連によるもの(浅在性)と肺などをフォーカスとした深在性では予後も臓器障害のパターンも全く違うことを明らかとした。真菌による敗血症と一括りにするのではなく、浅在性と深在性とに分類することにより、更に適切な対応が出来る可能性を示した。感染部位によって敗血症患者を層化した研究では感染部位ごとに予後も臓器障害、ショックのパターンも違うことを明らかにした。加えて、SPICE-ERのデータを用いた研究ではほぼ全例に広域抗生剤を用いているにも関わらず、感染部位を間違えると予後が悪いことを示した。これらの結果から、原因である感染部位の重要性と速度だけでなく、診療の正確性がいかに重要かを示す結果となり、均一化した速度一辺倒の診療への警鐘を鳴らすランドマーク研究となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は敗血症に関して4つの国内多施設共同研究に参加している。FORECAST(https://www.jaam.jp/jaamforecast/index.html), SPICE-ER・SPICE-ICU(https://www.jaam.jp/jaamspice/index.html), MAESTRO(https://www.jaam.jp/jaammaestro/index.html)である。これらは日本最大の敗血症データベースであり、申請者は主研究者の1人である。FORECAST研究では筆頭著者として、レジストリ全体の報告を国際雑誌に既に発表していた(Abe T et al, Critical Care 2018)。本研究課題はその二次解析である。 2019年内にFORECAST研究から10編の研究課題が国際学術雑誌に発表された。それは国内の救急・集中治療領域のレジストリからの業績としては最大級のものである。そのうち、申請者は①“敗血症患者の感染部位ごとによる予後の違い”、②“真菌による敗血症患者の特徴”、③“敗血症患者における早期抗生剤投与実行の記述疫学”の研究を報告した。③は救急・集中治療領域のトップジャーナルの一つに採択され、多くの国内外の研究者にインパクトを与えるものとなった。 更にSPICE-ERの研究は欧州集中治療学会で発表し、国外の敗血症の研究者たちと意見交換を行った。その議論を参考に“敗血症患者の感染部位間違いによる予後の違い”を、救急・集中治療領域のトップジャーナルの一つに発表した。一律の治療を行う敗血症には大きなインパクトを与え、誌面のLetterのやり取りで研究の背景を解説するなど、敗血症研究のランドマーク研究の一つとなっている。 このように順調にデータ取得、解析、国際学会発表、論文発表の業績を積み上げており、研究の進行としては概ね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
FORECAST研究、SPICE-ERについては概ね予定していた2次研究が終了した。これらをまとめ、レビューの執筆や講演などで情報の周知、教育などを進めて行く予定である。SPICE-ICUの研究は最初の解析が終了し、2020年の欧州集中治療学会の演題として、現在、複数の研究課題を投稿中である。採択された場合、国外の敗血症の研究者たちと意見交換を行うことが出来る。その後、それらの課題については更なる検討を加え、国際学術雑誌に投稿予定である。MAESTRO研究に関しては現在、データ取得が終わったところである。データ整理を待ち、全体をまとめ、報告した後に計画している2次解析を進めていく予定である。これらも出来次第、いかに臨床応用出来るかと言う点について、より良い解釈をし、国内外に広報していく。
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