研究課題/領域番号 |
19K19380
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山口 るつ子 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (90383603)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 診療関連死 / 法医解剖 / 医療安全 / 医療事故調査制度 |
研究実績の概要 |
2020年度は、自施設において2011年から2017年に取り扱った解剖事例から選定、抽出した診療関連死象事例147事例において、I. 受診直後の予期しない死亡(見逃し、誤診などの疑い)、II. 手術および侵襲 的な医療行為、また薬剤投与に関連する死亡疑い、III. 医療行為や診断過程には問題がないと思われたが、主に遺族感情による死因究明の希望があったもの、 IV. 病院・介護施設における予期せぬ事故や死亡など、患者管理・ケアが問題となっているもの、の4種に分類し、医学的観点から、主に死因・発生施設・診療科や部門・届出者・死亡者の年齢性別・解剖の種類・解剖結果からの医 療行為と死亡の因果関係の判断について包括的にまとめ、2010年代に創設された新しい死因究明制度としての死因・身元調査法に基づく解剖(新法解剖)、及び 医療事故調査制度の発足の前後の事例を比較し、こうした法改正や制度改革が実際の法医解剖における診療関連死事例の傾向と特徴にどのようなインパクトをもたらしているかを検討した。その結果、これらの制度の発足以降、診療関連死における司法解剖の割合は減少傾向にあり、即ち刑事事件としての扱いが減少傾向にあること、高齢化社会を反映して施設内の予期しない事故など医療行為による有害事象というよりは施設の管理責任が問われる事例が増加していること、また警察届出を端緒としない院内および第三者機関の支援による調査として期待が寄せられている医療事故調査制度が対象とできる事例は、上記のように分類した診療関連死の中では限られていること、診療関連死事例調査においては情報開示に刑事訴訟法上の制限がなく、医療現場に結果をフィードバックすることが可能な新法解剖の扱いが有用である可能性などが見出された。現在、この結果を英語論文にまとめ英文査読誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度は、収集した事例の実際の法的処遇について包括的に調査を行い、解剖結果が紛争解決等に与えた影響を検討すべく、裁判所や地方検察庁等への聞き取り調査を予定していたが、新型コロナウイルス感染症の拡大状況からこれが不可能の状況が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、収集した事例の実際の法的処遇について、可能な状況となれば当初予定していた裁判所等への聞き取り調査を行うが、尋問調書閲覧や判例データベースによる調査も並行して進める。また、2018年以降の事例についても収集を行い、事例の集積に努める。また解剖情報を統合し、再発予防のための勧告やシステム改善の元となるデータベース構築についても、事例検証と並行して医療データの利活用のためのデータサイエンスの実践的技術・知識を習得中であり、事例分析のために収集すべき情報や入力法の標準化 を目指しモデル作成を試みる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の拡大のため、当初予定していた聞き取り調査等に関する費用がなかったこと、また研究成果の発表及び研究に関連する知見を得るための国内・国際学会への参加も、同様の理由で不可能であったことにより、旅費を計上しなかった。 感染症については同様の状況がしばらく継続すると思われるが、学会参加等は可能な状況となれば予定しており、また裁判所への尋問調書閲覧に際しての費用や、文献・書籍の購入、論文投稿費用としての使用等を計画している。
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