我々は、病院情報システムに登録されているデータが欠損している状況それ自身も、何らかの情報を有するという先行研究に基づき、蓄積されたデータのさらなる利活用の手法の確立を目指している。その基盤の技術として、病院情報システムの主たるデータ入力元である臨床医が、様々な背景を持つ患者個々の臨床検査値をどのように判断したか、すなわち臨床医の思考の結果を「臨床医が問題ない」と判断する検査値の範囲として表現する手法を構築した。令和2年度中には、その手法を確立し、論文化を行った。令和3年度には新たなデータセットを使用し、「検査オーダを実施しない」という事実が、当該患者の検査値が正常範囲内に存在する可能性が高いことを直接的に検証することを試みた。具体的には、まず蛋白分画検査の波形情報を使用し、その波形情報から検査結果予測モデルの構築を行った。予測モデルの構築の際には、基準範囲内と基準範囲外の患者数の偏りを考慮し、過度に基準範囲内の予測を行わないよう注意して構築した。結果、予測モデルは検査項目を限定すれば、(バリデーションデータセットによる)AUC値にて0.8から0.9台と予測精度が高いモデルが構築できた。さらに、波形情報のデータセットには、オーダされておらず値が不明な検査項目が存在するため、その検査結果を予測モデルを使用して予測すると、多くの検査結果値が基準範囲内になるという予測結果を得ることができた。したがって、本結果にて本研究の前提である「検査オーダを実施しないという事実が、当該患者の検査値が基準範囲内に存在する可能性が高い」ということを示すことができた。
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